過去ログ - Iriya/Emotion into the sky
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1: ◆KM6w9UgQ1k[saga]
2016/03/22(火) 21:58:44.39 ID:3u2qsoVw0
キャノピーのに映しだされる映像は、混じりけのない純粋なものとは違う。

ブラックマンタ機外搭載物の高精細度デジタルビデオカメラで撮影され、内部に組み込まれているグラフィックソフトによって処理された映像。

僅かコンマ数秒のラグも許さない粋の結晶。けれど、それでも偽物は偽物だ。 

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2: ◆KM6w9UgQ1k[saga]
2016/03/22(火) 21:59:42.26 ID:3u2qsoVw0
たった2度の訓練で学んだだけ……上手くできるだろうか。

タッチパネルを操作していく指が、意外なほどに素早く目的の指示を機体に送り出せたことには多少なりとも驚かされた。



3: ◆KM6w9UgQ1k[saga]
2016/03/22(火) 22:00:32.28 ID:3u2qsoVw0
――視界というのは五感の中でも人間が最も依存している感覚だ。

故に、ブラックマンタの瞳は、機能面から、及びデザイン面からみても非情に細心の注意が払われている部分でもある。

これから君たちに伝えることは、正直な話あまり意味を成さないかもしれない。
以下略



4: ◆KM6w9UgQ1k[saga]
2016/03/22(火) 22:01:27.80 ID:3u2qsoVw0
甲板上のあなたを見つめ、わたしは必要な最後の操作を実行する。

慎ましいアラームが鳴り、キャノピーがモニターとしての役目を放棄した。

朱色の夕空の光が容赦なく刺し込む。映像は自然に調光されていたから、そのあまりの光度に軽い目眩を覚えて、
以下略



5: ◆KM6w9UgQ1k[saga]
2016/03/22(火) 22:02:37.77 ID:3u2qsoVw0
 地球を一周して、また、この洋上に帰ってくる。

距離にしてだいたい4万km、当たり前のように円を描いているけれど

初めて地球を一周したときには、胸の内に不思議と誇らしい感情を抱いた憶えがある。
以下略



6: ◆KM6w9UgQ1k[saga]
2016/03/22(火) 22:03:56.26 ID:3u2qsoVw0
 初めの頃は容赦無い教官たちに骨を折られる者もいた。

投与された薬物の副作用は、この身体だけではなく、むしろ心により多くの傷跡を残していった。

ディーンドライブを作動させた場合に、その操縦に欠かせない装置。知らないうちに手首の金属球を撫でさするのが癖になっていた時期もある。
以下略



7: ◆KM6w9UgQ1k[saga]
2016/03/22(火) 22:04:57.45 ID:3u2qsoVw0
 これが、自由……なのだろうか? そう、きっとそう。

 私たちの誰もが、自由をその全身で感知した。教官のイエスタデイ、小煩いバートランド、榎本に椎名だって

この空を悠々と縦横無尽に飛び回る私たちには、今は手を出せない。そう、思えた。
以下略



8: ◆KM6w9UgQ1k[saga]
2016/03/22(火) 22:05:54.76 ID:3u2qsoVw0
 でも、結局のところ、私たちはどの点から検討しても自由とは程遠い状態にあった。

鎖を繋がれ、鎖の長さの分だけ私たちは自由のフリをすることができていただけ。その事実に気づくのに、それほどの時間はいらなかった。

真っ先に誰が、この事実を口にしたのだろうか、今ではもう判然としない。
以下略



9: ◆KM6w9UgQ1k[saga]
2016/03/22(火) 22:06:21.16 ID:3u2qsoVw0
どうして私たちは、戦っているのか? 何のために戦っているのか? 

これは、誰を守るための戦いなのだろうか?



10: ◆KM6w9UgQ1k[saga]
2016/03/22(火) 22:07:26.60 ID:3u2qsoVw0
みんな、目的を持てずにはいられなかった。どうして? 何のために? なぜ?

生きているのだから、心があった。心があるから、考えることは止められなかった。

ベッドに腰掛けているとき、舷窓から輝くダイヤモンドのような海原を眺めているとき、わたしはどうしても意味を求めてしまっていた。
以下略



11: ◆KM6w9UgQ1k[saga]
2016/03/22(火) 22:08:32.79 ID:3u2qsoVw0
「僕がみんなを守るよ、だからみんなも僕を守ってくれ!」

 ディーンがみんなの輪の中でそう言ったとき、わたしは本当に、これ以上にないぐらい嬉しかった。

そうか、これがわたしの意味なんだ。戦いの理由なんだ。辿り着くべき答えはこれだったのだ、と。
以下略



12: ◆KM6w9UgQ1k[saga]
2016/03/22(火) 22:09:17.23 ID:3u2qsoVw0
コックピットの縁に吊るしてある浅羽袋が目に止まり、鼻腔がじんわりと熱くなる。

唇を伝い、顎を滑って膝の上に落ちる血の雫。鉄の味、生の味、わたしは生きている。


13: ◆KM6w9UgQ1k[saga]
2016/03/22(火) 22:10:21.83 ID:3u2qsoVw0
ジェイミーが死んで、ディーンにエンリコ、そしてエリカ……わたしはもう意味を喪失していた。

わたしはわたしを失ってしまっていた。ブラックマンタに搭乗して、出撃して、たった1人だけでソレと戦う日々

訓練のゲームと実戦、その頃のわたしには明確な境界が消失しかけていた。
以下略



14: ◆KM6w9UgQ1k[saga]
2016/03/22(火) 22:11:29.52 ID:3u2qsoVw0
 ただただ時間だけが流れ、遂行されていった作戦の記録が、わたしが生きている証拠のように整然と並んでいる。

鼻血が溢れる頻度が増え、突然意識を失ってしまうこともあった。

不安はない。冗長気味の口調のエリカのおかげもあったかもしれない。
以下略



15: ◆KM6w9UgQ1k[saga]
2016/03/22(火) 22:12:19.94 ID:3u2qsoVw0
「私たちはイリヤを待ってるよ。仲間はずれなんかにしない。でも、聞いてイリヤ。

イリヤも戦って死ぬの。戦って戦って、そして最後にあっ、てなったその瞬間に死ぬの。

自分から死んだりしちゃ、私たちとは違う形になってしまうから、それはダメ」
以下略



16: ◆KM6w9UgQ1k[saga]
2016/03/22(火) 22:13:07.65 ID:3u2qsoVw0
『名前は?』

『いりや』

『――泳げないの?』
以下略



17: ◆KM6w9UgQ1k[saga]
2016/03/22(火) 22:13:50.38 ID:3u2qsoVw0
 浅羽と出会ったあの日、わたしは、入里野加奈はもう一度生まれた。

浅羽の言葉が、わたしを再びつくりあげたのだと思う。

エリカたちとはどこかが違う、異なる種類の好きな人。それが浅羽。
以下略



18: ◆KM6w9UgQ1k[saga]
2016/03/22(火) 22:14:30.35 ID:3u2qsoVw0
 それからのわたしは、生死をないがしろにすることができなくなっていった。

徐々にだけれど死に対して、どうしようもない恐怖を抱き始めてしまっていた。


19: ◆KM6w9UgQ1k[saga]
2016/03/22(火) 22:15:17.74 ID:3u2qsoVw0
「浅羽を死なせたくない、でもわたしも死にたくない。生きたい」

 椎名にそう話したとき、なぜだか椎名が辛そうな顔をして、視線を逸し、目を伏せた。

「そうね、私だって、伊里野と浅羽くん……ううん、違う。みんなに生きてもらいたいわ」
以下略



20: ◆KM6w9UgQ1k[saga]
2016/03/22(火) 22:16:23.08 ID:3u2qsoVw0
「ねえ、伊里野は浅羽くんが好き?」

 少し恥ずかしかったけど、わたしは頷く。

「猫は?」
以下略



21: ◆KM6w9UgQ1k[saga]
2016/03/22(火) 22:17:05.67 ID:3u2qsoVw0
「どうして、好きなの?」

「浅羽が、好きって言ったから」

「そっか……じゃあ猫と浅羽、ってちょっと愚問だったわね」
以下略



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