過去ログ - 夕美「スーツケース」
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10: ◆Zo89VSw555MV[saga]
2016/03/31(木) 19:59:48.82 ID:WOjo7pAA0
「いらっしゃいませ。お好きな席へどうぞ」

男性はこちらに気づくと手を止め、笑みを浮かべながらしゃがれた声で私たちを促した。

その声に導かれるまま、私たちは窓際の二番目のテーブルに向き合って座る。

「それにしても人、多かったな。一番の見ごろだとニュースでも言っていたし、休日だから仕方ないけれどさ」

「そうだね……」

曖昧な返事をしながらも、私はメニューを支える彼の左手から目が離せなくなってしまっていた。

いつか向かい合わないといけないと目をそらしていたのに、面と向かえば目が離せなくなるなんておかしな話だ。

だから、今まで手を握って見ないようにしていたのに。

それを遮るように、私は両手で握ったメニューで顔を覆った。


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