過去ログ - 西住みほ「堕ちていくほど、美しい」
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2016/04/01(金) 22:11:00.99 ID:sOyMUoJv0
喪うことの多い生涯を送ってきました。
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2:津島[saga]
2016/04/01(金) 22:11:30.71 ID:sOyMUoJv0
 子供の頃はまだ憧れだった偉大な姉も、歳がゆけば西住の名を背負う存在となり(それは仕方のないことですけれど)、母が私にもそうあれと望み、周りの者に比べられるようになってからは、お化けのような恐ろしい存在になってしまいました。 
3:津島[saga]
2016/04/01(金) 22:12:10.13 ID:sOyMUoJv0
 隊長の妹。西住流の娘。 
  
 名ばかりの七光りとはならぬようにと努力するうちに、愛してやまぬはずの戦車は鉄の檻のように感じられるようになり、私は不安に陥ってしまいました。 
4:津島[saga]
2016/04/01(金) 22:13:25.96 ID:sOyMUoJv0
 私の一生を決定的なものにしたのは、2年前の全国大会の決勝での一件です。 
  
 崖道を走行中に、後輩の乗るIII号戦車が川に滑落し、水没したのです。 
  
 私は我知らず、己の居るフラッグ車から走り出してしまい、結果として我が校は敗れ、10連覇は喪われました。 
5:津島[saga]
2016/04/01(金) 22:13:58.10 ID:sOyMUoJv0
 さて私が行ったからにはその者たちは助かったのかと問われれば、残念ながら、と言うほかありません。 
  
 III号に乗っていた後輩はみな死にました。 
6:津島[saga]
2016/04/01(金) 22:14:46.48 ID:sOyMUoJv0
 「西住先輩、西住先輩、助けてください」 
  
7:津島[saga]
2016/04/01(金) 22:15:31.04 ID:sOyMUoJv0
 そう言って沈んでいった、後輩の顔を忘れたことはありません。 
  
 伸ばした手をつかんだのに。 
  
 当然私自身も無事とはいかず、しばらくの入院を余儀なくされました。 
8:津島[saga]
2016/04/01(金) 22:16:21.27 ID:sOyMUoJv0
 逸見さんは怒っていました。 
9:津島[saga]
2016/04/01(金) 22:17:19.45 ID:sOyMUoJv0
 というより、後輩を喪った気持ちと、敗けた口惜しさと、私への怒りが綯い交ぜになってやりきれなかったのだと思います。 
10:津島[saga]
2016/04/01(金) 22:18:05.59 ID:sOyMUoJv0
 逸見さんはあの時、フラッグ車の砲手でしたから、落ちてゆくIII号がよく見えたのです。 
  
 後輩たちがどんな思いで落ちていったかも、きっとわかったはずです。 
11:津島[saga]
2016/04/01(金) 22:18:27.98 ID:sOyMUoJv0
 病室を去る前、逸見さんは、お前が殺したんだ、と言いました。 
  
 それについては、私は何とも申し上げることはできません。 
  
12:津島[saga]
2016/04/01(金) 22:19:07.17 ID:sOyMUoJv0
 私は病床で、病でもないのに臥せったまま、無為に退院までの日を過ごしました。 
  
 尋ねる人は不在でした。 
  
 ぼんやりと天井を眺めるまま、私も死んでいれば、と思いました。 
13:津島[saga]
2016/04/01(金) 22:22:08.27 ID:sOyMUoJv0
 やがて退院の日が来ました。 
  
 迎える人も、不在でした。 
  
 もしかしたら、姉が迎えにきてはくれないかと期待もしたのですが、戦車で来られでもしたら卒倒していたでしょう。 
14:名無しNIPPER[sage]
2016/04/01(金) 22:22:58.22 ID:cM/RpA5uo
 期待 
15:津島[saga]
2016/04/01(金) 22:23:31.98 ID:sOyMUoJv0
  
  
 家で私を待っていたのは、恥辱であり、面罵であり、地獄でした。 
  
16:津島[saga]
2016/04/01(金) 22:24:18.57 ID:sOyMUoJv0
  
 私が玄関先で何も言えないで、変にもじもじしているのを一瞥した母は、 
  
 「入りなさい」 
  
17:津島[saga]
2016/04/01(金) 22:25:04.99 ID:sOyMUoJv0
  
 暗がりを歩くようにおっかなびっくりと家に入る時は、とても敷居が高く感じられました。 
18:津島[saga]
2016/04/01(金) 22:25:44.18 ID:sOyMUoJv0
  
 眼前に座る母は、和室の戦車柄の襖も相まって閻魔様のように見えました。 
  
 その傍に座っている姉でさえ、まるで地獄の悪鬼悪霊と見まごうほど恐ろしく感じられるのです。 
  
19:津島[saga]
2016/04/01(金) 22:26:32.44 ID:sOyMUoJv0
 「よくもおめおめと顔を出せたわね、この恥曝し」 
20:津島[saga]
2016/04/01(金) 22:27:14.91 ID:sOyMUoJv0
 おおかたそのようなことを言おうとしていたのか、はたまた私を労わる言葉をかけようとしてくれていたのかは、ついぞわからぬままになりそうです。 
21:津島[saga]
2016/04/01(金) 22:28:04.33 ID:sOyMUoJv0
 「何故フラッグ車を放って救助に行ったの」 
  
 「...え、っと」 
  
 「貴女が助けに行こうと行くまいと、どのみちあの子達は死んでいたわ」 
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