過去ログ - ちひろ「プロデューサーさんとの幸せな日々」
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名無しNIPPER
[saga]
2016/04/06(水) 04:43:59.05 ID:yjfF0art0
留美はほとんど倒れ込むようにして、男の傍に身体を横たえた。先ほどまで自分を抱きしめていた腕を枕にして、男の心臓の上にそっと手を置く。見上げると目が合った。微笑みかけると、男は目を逸らした。留美はくすくすと屈託のない顔で笑う。
お互いに、言葉はない。留美は男の呼吸をじっと聞いていた。ゆったりとしたリズムが安らかな寝息に変わる瞬間が、彼女は好きだった。
留美も目を閉じた。手のひらに感じる鼓動が、たまらなく愛おしくて、泣きそうになる。
「……貴方は、知ってる? 私は、貴方にたくさんのものを貰ったの。喜びも、悲しみも。愛も、憎しみも。
貴方を知らなかったころの私と、貴方を知ったいまの私は、もう何もかも違う。
私は貴方で出来ている。貴方の言葉が、私を作った。何もできなかった私はもういないの。
だからね、いつも思ってるわ。ありがとうって」
留美は愛情をこめて男の胸にキスをした。
「……覚えてるかしら。この前、不安で泣きそうだった私に、貴方が言ってくれたこと。ふふっ……覚えているわけがないわよね。だって貴方、あの時は寝ぼけていたもの」
それは今日と同じように激しく抱き合い、疲れ果て、寄り添って寝た日のことだった。
日も昇らぬ時間にふと目覚めた留美は、寝息を立てる男に寄り添いながら、どうしようもなく冷たくなっていく心に震えていた。
こうなったことを彼女は後悔していない。きっと後悔なんてしない。誰にも言えない、こんなにも幸せな毎日が、いつまでも続いてほしいとただ願っている。だが変わらないものなどない。どんなに祈ろうと時間は巻き戻ったりはしない。
留美は怖くなったのだ。一年が過ぎて、二年が経って、三年目を迎えれば、彼女は二九になる。まだ若いと誰もが言うかもしれない。だがそのころには凛や未央は今よりずっと綺麗になっている。光も、まゆも。どんなに努力しても、もう成長できない留美をよそに、彼女たちはどんどん眩しくなっていく。
そうなったとき、自分はどうなるのか。考えたくもない未来に青ざめた留美は、ぴったりと男にくっついて、震えを止めようとした。男がうっすらと目を開けたのはそんなときだった。
留美は問いかけた。上ずりそうになる声を必死に抑えて、平静を装って、心の中で泣きながら、問いかけた。
――ねえ、P君。あの子たちはこれから先、いまよりもずっと美人になるわ。時間が経つほどに、目が潰れるくらいの眩しい女の子に。ねえ、貴方はその時が来ても、私を抱いてくれる? こんなふうに、愛してくれる? ねえ、P君……教えて。お願い。
それはすでに問いかけではなく懇願だった。すがりついた腕は隠しようがないほど震えていたが、まだ夢の中にいる男はそんな留美の様子には気付かない。男は気の抜けた顔で笑って、留美の頭をぽんぽんと優しい手つきで撫でながら、こうささやいた。
――なに言ってるんですか。眩しさで言えば、留美さんだってほとんど変わらないじゃないですか。きっと何年経ったって、この目には貴女が光って見えてますよ。
励ましではなかった。慰めでもない。真剣さもない。思ったことを口にしただけ。ただ単純に事実を告げるだけの言葉は、なんの抵抗もなく留美の心に入っていって、一番深いところで大切なものになる。この瞬間、留美はこの人を好きになってよかったと心の底から思った。
「すごく嬉しかった。あの日のことは、一生忘れないわ。いいえ、死んでも忘れないから……ふふっ」
男の安らかな寝息を聞きながら、留美は微笑んで、重たくなってきたまぶたを閉じる。
まどろみの中。声には出さず、あの日と同じ言葉をつぶやいた。
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