過去ログ - モバP「望月聖にプロポーズされた」
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2016/04/06(水) 21:42:00.14 ID:E3kjTPZio
  ◇ 
  
 人は慣れる生き物、みたいです。 
  
 伝える努力をしなければ、人には伝わりません。 
 わたしの好きなものが、大事なものが、他人にとって必ずしも特別なわけでもないみたいです。 
  
 歌うことは、きっと……好き。 
  
 だけれど、そこにはなんの意味もありはしません。 
 最初は興味深そうに、すごいと言っていた人も少しずついつもの距離に戻っていく。 
  
 「……今日も、いる」 
  
 最後に聖歌隊のお友達とお別れしてどれだけ経っただろう。 
 少しだけ空の色が陰り始める。 
  
 ――そろそろ、です。 
 教会の窓から外を覗くと、植え込みの影からひょっこりと男の人の首が生えている。 
 少しだけ、高い位置にある窓の縁に背伸びをして肘を掛ける。 
  
 意味なんて、ない。 
  
 吹けない口笛交じりに。 
 時々、苛立ちを込めて。 
 いいことがあった日には喜びを乗せて。 
  
 思いつきのままに、滅茶苦茶に、どこかで聞いたような歌を。 
 そして、途切れ途切れの、瞬間、瞬間の閃きを、歌う。 
  
 ぐちゃぐちゃのリズムに合わせるように、小さく遠くに見える首が揺れる。 
 何日も、何ヶ月も、もう数年繰り返してきた流れ。 
  
 わたしにとって意味のない囁きはあの心地よさそうに揺れる頭にとって心地よいものなのだという確信を持つのに長い時間が掛かった。 
  
 最初に踏み出したのはいつだった、かな。 
  
 わたしが小さく囁きながら、ぼろぼろのベンチに近づいた日。 
 何日も、何ヶ月も、何年も背中を向けたまま揺れるだけだった影がこちらを向いて、小さく微笑みを浮かべて初めて、わたしを見た。 
  
 きっときっと、いつか。 
 交換しましょう。 
 わたしがまだ意味を見いだせないけれどそれでも大好きな、歌をあげます、から。 
  
 そんなわたしの歌に意味を見出した、あなたの楽しそうな笑顔を、わたしに、わたしだけに、ください。 
  
  ◇ 
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