過去ログ - 光彦「時間を巻き戻す時計ですか」
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2016/04/07(木) 23:45:01.96 ID:yDsIsQIS0
  
  
  
 僕は右手でキー・ホルダーを回し、ウィンクをしてみせた。梓は困ったように笑って、少し考えるふりをする。我々はこれまでに何度かデートを重ねてきたから、今更そんなジェスチャーは必要ないというのに……。 
  
 どうやら、僕が考えている以上に、梓さんは我々の前に横たわった年齢差を気にしているらしかった。 
  
 僕は頂いたばかりのおかわりを胃に流し込んで、「それじゃあ」と言って席を立った。どのみち家で支度をしなければいけないから、梓さんが返事をする前に帰ってしまおう。責任感の強い彼女は、僕に待ちぼうけを強いることをしないはずだ。 
  
 カランカランという音に見送られて外に出た。なんとなく後ろを振り返ると、二階のテナント募集の張り紙が目立っていた。僕は気づかないうちに走りだしていた。無理矢理に頭を切り替えて、今夜の愛瀬に思いを馳せた。 
  
 結局、梓は断らなかった。それが答えなのだ。 
  
 彼女の左手で輝いていたシルバー・リングは、今夜、僕の為に留守番を任されることになる。 
  
  
  
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