153: ◆m03zzdT6fs[saga]
2016/05/12(木) 02:48:19.40 ID:CcDOu7THo
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『素晴らしかったです、文香さん』
「……本当、でしょうか。もしそうなら……良かったのですが」
『僕が保証しますよ、まあエンジニアを兼任するプロデューサーですからね。どの程度当てになるかっていうのはちょっと、わかりませんけれど』
巨大なライブハウス、その舞台裏から続く楽屋前の通路に僕と文香さんはいた。
上気し少し顔を赤らめている文香さんへ、携えていたスポーツドリンクを渡す。文香さんはそれを受け取ると、ゆっくりと飲み始めた。
消耗しきった文香さんの様子をうかがいつつ、遠くから聞こえるどよめきや歓声に耳を傾ける。そうとも、この音が何よりの証左になるはずだ。
僕がどう感じたか、なんて些少なこと。ステージから文香さんが消えてもなお続く歓声は、今回のライブがどうだったかを物語っていた。
文香さんの単独ライブは、大喝采のもとに幕を閉じたのだ。
『今回のライブで名実ともに、文香さんも一流アイドルの仲間入りですか』
「……そう、なのでしょうか。実感は、ありません。私がアイドル……というのも、はじめは何か、冗談のようなものだと、思っていましたから」
『僕は初めて見たときからずっと、そこらのアイドルより綺麗だと思っていましたけれどね』
「……もう、Pさん」
文香さんは照れたように少し俯いて、一歩僕に近づく。そして僕にもたれかかるようにして頭をこつん、としなだれかからせて。
こんなところ、人に見られてはどうなるか分かった物ではない。けれどそれを拒絶することもたしなめることもせず、むしろ抱き寄せるようにして彼女の背中に手を回す。
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