102: ◆KSxAlUhV7DPw[saga]
2016/06/15(水) 00:50:07.34 ID:daPPk+Poo
踵を返して寮に帰ろうか、なんて迷い始めるボクのもとに、足音が近づいてくる。時間切れらしい。
彼の助けも望めないこの日常の世界で、ボクは覚悟を決めた。足音が複数聞こえてこないのが唯一の救いだった。
振り返ると、ボクを呼び出した張本人らしい女子生徒が佇んでいてた。顔を僅かにしかめていて、むすっとした表情からは不機嫌さが窺える。
……どこかで見覚えがあるな。そう、人を寄せ付けなくする雰囲気を纏っている彼女は、孤独だった頃のボクのようだ。
同類、と呼ぶにはボクのセカイは変わってしまっているが、この日常世界においてはボクもまだ孤独か。ならば彼女はボクの同類なのかもしれない。
「悪かったわね、こんな陳腐な方法で呼び出してしまって。他に思いつかなかったのよ」
念のため言葉を選んで返答しなければ。
しかし表情とは裏腹に言葉遣いは粗暴ではないようなので、ボクは彼女の何を信じたらいいのか困惑している。機嫌が悪いわけではない、のか?
「……ボクに何の用かな」
「ふぅん、やっぱり貴女は自分をボクと称するのね」
そういえば、転校してから誰かと話をした覚えがあまりない。その分アイドル生活の方でよく話すようになったからうっかりしていた。
彼女の言い方からすると、まるでボクがボクと自称することを知っていたかのようだが。
「単刀直入に聞くわ。貴女って、あの「二宮飛鳥」でしょう? この前……家族が観ていた番組を偶々私も観て、そこに貴女が映っていたと思うのだけれど」
番組にボクが映っていた、ね。
それだけではまだ同姓同名の可能性も残っているわけだが、考慮するほどのものでもないだろう。
はて、どうしたものか。身バレした時の対処方法、蘭子や幸子に聞いておけばよかった。
「だんまり? そうしないといけないのなら、深くは追究しないわ」
「別に、慣れていないだけさ。ボクもまだアイドルになったばかりなんだ」
「季節外れの転校生にはそんな秘密があったのね」
じろじろ顔を覗かれる。いや、顔じゃない。顔の……後ろ?
「あれ、何て言うの? 黄色かったと思うけど、さすがに学校にはしてこないのかしら」
「エクステンション――エクステだよ。正確にはヘアーエクステンション。学校にはまぁ、没収でもされたらかなわない」
ボクと彼が出会った時の色であり、始まりに相応しいと思ってあの日は黄色に決めていた。
やはり彼女はテレビでボクを見たようだ。ここまで来て言い逃れするつもりもなかったが、午後からの予定もあることだし早めに解放して欲しかった。
彼女と話してみるのも、悪くはなかったけれど。
「一躍不良生徒の出来上がり、ってところ? くだらないわよね」
「まぁね。……こんなところに呼び出して、聞きたかったのはそれかい? 用が済んだのならボクは帰りたいんだが」
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