101: ◆KSxAlUhV7DPw[saga]
2016/06/15(水) 00:48:27.28 ID:daPPk+Poo
幸運にも窓際に席を配置されたボクは、桜色に染まった景色をいつも見下ろせる権利を手に入れた。
今日は始業式。まだ二ヶ月と過ごしていないこの学校で中学三年生へと進級した感想を述べるとするなら、早く帰りたい、に尽きる。
知り合いと呼べる同級生もいないボクにクラス替えなど何の興味もなく、ただただ騒がしい教室で外を眺めていた。これで自分の席がクラスのど真ん中にでもなれば、本の一つでも用意しないとやってられないところだ。
時折それまで歓談していたグループにふっと沈黙が訪れては、ボクへ向けられる視線を感じることもあった。
転校して間もない頃と似ている。あの頃は奇異の目に晒されたものだ。しかしそれとはどこか異なる視線のようで、上手く説明できないけれど、とにかく居心地はあまりよくない。
始業式ということで午前中には学校が終わる。あの対抗戦フェスの日から一週間が過ぎ、期間限定で活動していたボクら四人は午後から一週間ぶりに集まることになっていた。
あの日の内から急激に忙しくなった彼がやっと一息つけるそうだ。延びに延びていた祝勝会、とまでは残念ながらいかずとも、慰労会をするらしい。もちろんボクも出席するつもりでいる。
そんなわけで、つまらない日常の世界から一刻も早く離脱したいのだが。
「……?」
ホームルームを終え、帰り支度をしていると見慣れない封筒がボクの机に入っていた。
いつの間に? 始業式のために体育館へ移動した時だろうか。今朝はそんなもの無かったはずだ。
ずっと外ばかり眺めていたボクが不意を突くように教室の中を見回してみると、何人かが不自然に姿勢を変えたりそっぽを向いたり、明らかにボクを観察対象にしていた動きをみせる。
……なんだっていうんだ。まさかさっきの中の誰かが、こんなものをボクに?
教室に居ては身動きを取りにくく感じ、ひと気の少なそうなところへひとまず場所を移すことにした。このままだとあまりいい気がしないので、さっさと帰りたくはあるがボク宛のメッセージを確認してから帰ろう。
ええと、校内で比較的誰とも会わずに済みそうなところといえば――
考えた末、体育館裏というありがちなスポットを選んでしまった。
まぁいい。幸い人の気配もないし、学校指定のバッグから封筒を取り出す。飾り気のない封筒で、差出人を推測するには情報が足りない。
中に入っていた便箋には小綺麗にまとまった文字で、たった一行、こう書かれている。
『ホームルームが終わり次第、体育館裏で貴女を待つ』
……。ふむ。
用件を書いてくれよ、しかも指定の場所へ来ちゃっているじゃないか。
このまま闇討ちとかされたりはしないよな、果たし状の類にしては文字も丁寧で気を遣っているし。これでも一応アイドルなんだから、もっと身辺は警戒すべきだったろうか。ボクなんてまだ無名も無名、そこまで気にする必要も無いはずだが。
確かに春休み中に新人の身で大舞台に立たせて貰ってはいる。テレビ中継、されてたんだったかな。
もしかしたらボクがアイドルをしていることを偶然知って……? 知ったから呼び出す意味も解らないけれど、差出人はボクに何の用があるというんだ。
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