24:名無しNIPPER[saga]
2016/05/06(金) 21:56:19.09 ID:+Oro3rOyo
「よかろう。我もこのまま捨て置けぬ。壮健な我が身を以て、我らが花園へ帰還した暁には同胞たる飛鳥の邪気を祓わん!(私も心配だから、寮に帰ったら飛鳥ちゃんの看病するね!)」
「いいよ、そんな。万が一蘭子に伝染してしまったら元も子もないだろう?」
「我の魔力ならば造作もない! 我が同胞飛鳥の禊、我が執り行おうぞ。まずはこの呪符で凍てつく冷気より這い寄りし魔を祓うとよい(大丈夫! 私が飛鳥ちゃんを早く治してみせるから、はいホッカイロ!)」
善意で半ば無理やり手に握らされた温かなそれを、そのまま突き返すほどボクは芯まで凍えてはいなかった。今は、もう。
「あぁもう、もっとボクにもわかりやすくですね? とにかく、下に降りましょう。プロデューサーさんの車で早く帰って、今日のところは安静にしていてください。いいですか?」
「……そうするよ」
そしてボクは、感謝の意を表すのも下手になっていたことに気が付いた。もっと気の利いた台詞があったはずなのに。
二人に挟まれるようにして事務所を後にすると、ボクらを車で待っていたプロデューサーとすぐに合流した。
幸子から「ボクの特等席、今日は特別ですよ」と助手席を明け渡され、断る理由もなくそれに従う。後部座席に蘭子と幸子も乗せて三人揃って送ってもらうことになった。
カーエアコンが作動していたものの車内はまだ温まりきっておらず、微かに身震いしてしまう。それを見咎めたのか彼は出発前に自分の上着を脱ぎ、ボクに差し出した。
「さすがにそれではキミが寒いだろう?」
「お前の方が心配だ。なーに、俺は寒さに強いから気にすんなって……ヘェックシュン!!」
……嘘が下手にも程がある。でもそこはアイドルであるボクを優先すべきだからと押し切られた。裏方というのも大変だな。
ボクはありがたく上着を借りることにし、毛布代わりに身を包んだ。蘭子から貰ったホッカイロもあり、これでまだ寒さを感じようものなら罰が当たりそうだ。実際とても温かい。
「うーし、いくぞ。頼むから信号捕まんないでくれよぉ……」
弱々しい号令とともにアクセルが踏まれ車が出発する。そこまで遠くない道程ではあるが、やはり東京では車も窮屈そうに風を切っている。彼の方こそ風邪を引かないよう、せいぜい祈りを捧げるとするか。
……やはり何かおかしい。さっきからそんなキャラだったか、ボク。
まぁいいさ。体調が戻れば自然といつもの自分を取り戻せるだろう。それまでは戯言に興じてみるのも悪くない。
「なぁ――」
「ん? どした」
「……。いや、何でもない」
後ろの二人に倣ってボクも何か話していたくなり、彼の方を向くと運転に集中している横顔があった。
ボクのためにわざわざ車を出しているんだ。邪魔をするのはよくない。
そう思い、ボクは黙って彼の運転を見守ることにした。
……気付かれないように、そっと。彼の横顔を見つめながら。
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