過去ログ - 飛鳥「ボクがエクステを外す時」
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55:名無しNIPPER[saga]
2016/05/22(日) 00:33:54.34 ID:C7BIXhIso



 寮の自室へ戻るなり、灯りもつけずにベッドへうつ伏せに横たわった。
 何かをする気になれない、これからどうしたいのかも解らない。真っ暗な部屋でただただ孤独に苛まれている。
 今頃彼らはボクの影をそこに置いて、どこかで食事をしているのだろう。考えただけで後悔しそうになる。ボクも行きたかったな。
 ……でも、これでよかったんだ。ボクがボクである限り、「二宮飛鳥」として彼らと交わることさえ出来れば、他に望むものはない。過ぎた欲は身を滅ぼす。世界ではよくあることさ。
 そうやって自分を騙すのは慣れている。だからといって、それで得られるものはない。あるとすれば虚無感くらいだ。
 暗闇の中、思考まで暗くなっているボクにはお似合いだな。虚無……か。

「飛鳥ちゃん」

 ……? 幻聴だろうか。
 いないはずの人間の声が聞こえてしまうとは、いよいよボクの精神は闇に憑りつかれてしまっているのかもしれない。
 ……そんなわけがなかった。今度はノックの音も暗闇の中に鋭く響いた。

「飛鳥ちゃん、いる……よね? 入ってもいいかな」

 帰ってすぐに部屋の鍵を掛ける習慣は失っている。入ろうと思えばいつでも入れる状態だ。もっとも、この部屋に訪れようとする人間はかなり限られているが。
 いや、限られているからこそ、すぐには鍵を掛けなくなったのだろう。彼女らならいつ来てもいい、そう思っていたから。
 蘭子はボクに何の用だろう。寮にいるということは、ボクのせいで食事をしに行く予定はキャンセルになってしまったのかな。ボクのせい……それならますます今は顔を合わせづらい。
 蘭子も解っているだろうに、それでもボクに寄り添おうとするのか。
 逃げ場は……ない。だが彼女を拒絶することも、ボクには出来なかった。

「……お邪魔しまーす」

 ゆっくりと丁寧に蘭子は部屋のドアを開けた。中が灯りもついていないことを察してか、声のトーンを落としている。そのままほとんど音を立てずにドアが閉まる。
 この暗闇の中にボク以外の誰かが存在している。姿は見えない……今の体勢では明るかろうがどうせ見えないけれど、孤独を選んだボクにも繋がりを求める誰かがいてくれて、心に小さな火が灯るようだった。

「飛鳥ちゃん……聞こえてる?」

 部屋の中までは入ってこようとせず、ドアを閉めてからその場に立ち尽くしている蘭子はボクに問いかけた。

「間違ってたらごめんね。飛鳥ちゃん、プロデューサーと何かあった?」

 ……。
 何かはあった。だがそれはもう決着がついている。ボクが勝手に別なことを引きずっているだけで、あの時のやり取りはもう終わったんだ。

「…………」

 蘭子に答えられそうな返事は持ち合わせておらず、無言を返すしかない。
 それを彼女はどう捉えたのだろう。呆れてしまっているだろうか。それとも……。

「……あ、あのね。それじゃあ、私も答えるから……これだけは聞かせて」

 私も答える? 蘭子は何をボクから引き出すつもりなんだ。
 ろくに返事もしないボクへ語りかける蘭子は、決意のようなものを抱いてこの暗闇を今も存在しているに違いない。そんな彼女の決心を聞いてしまえば、またボクは何かを後悔することにならないだろうか。
 ……聞いてみたい、だけど聞きたくない。逃げ場を失っているボクがいくら迷おうと、蘭子を止められるはずもなかった。

「飛鳥ちゃんは……。あ、飛鳥ちゃんは、あの人のこと…………好き?」


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