54:名無しNIPPER[saga]
2016/05/22(日) 00:27:50.96 ID:C7BIXhIso
「……いい、ボクはやめておくよ」
「そうか? 残念だな……どうしても? 遠慮しなくていいんだぞ?」
「うん。苦手だから、そういうの」
食い下がる彼から逃げるように視線を逸らす。その先には蘭子の哀しみに染まった瞳が飛び込んできて、たまらず下へと再度視線を逸らした。
俯きながらボクは帰るための支度を始めようとする。
「飛鳥さん、そう仰らずに行きましょうよ。どうしちゃったんですか? まさかまた具合でも……?」
頭を撫でる彼の手から離れ、ボクの様子を窺いにくる幸子。
「……。行こ?」
ボクの手を取り、寂しそうにボクを見つめる蘭子。
「飛鳥もいなきゃ、行く意味が薄れちゃうんだけどな……今日だけでも、だめか?」
苦手だと告げたはずなのに、なおも優しく食い下がるプロデューサー。
……あぁ、なんて居心地が良いんだろう。孤独から抜け出したくて、あんなに求めていたものがここにあるというのに。
でも、駄目なんだ。ボクはここにいたいから、一緒には行かない。
つまらない意地かもしれない。それは解ってる。きっと彼らならどんなボクだって受け入れてくれる。根拠はない、だたボクがそう勝手に信じているだけだ。
それでも、この世界は何が起こるか解らない。さっきのボクのように、その気のない一言で相手を傷付けてしまうこともある。それが引き金となって永遠の別れに繋がったりもするだろう。
ボクは恐れているんだ。この居場所を失ってしまうことを。
全ての始まりである彼から……見限られてしまうことを。
ボクが「二宮飛鳥」で在り続ければ、少なくとも居場所を失うことはない。
ここにきて、ボクは望んだものの尊さを理解した。
「……いっておいで」
ボクの手を取る蘭子を軽く振りほどき、支度を済ませる。
三人の視線に僅かな痛みを覚えながら、ボクは一人で――独りで、事務所を出た。
帰り道、見慣れた景色であるはずがどうにも色褪せている。雑踏の音も何も聞こえてこない。ここには何もない。
あるのは孤独だけだ。
……いたたまれなくなり、ボクは遠回りをしてでも違う道から寮へ帰ることにした。
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