過去ログ - 飛鳥「ボクがエクステを外す時」
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85: ◆KSxAlUhV7DPw[saga]
2016/06/08(水) 23:36:28.80 ID:6KGN/Wqko



 そうして行き着いた先は……屋上だった。
 こんな時間だ、ひと気もなくて都合が良い。懸念事項として探し当てられやすくはあるが、どうでもいい。いっそのこと雨にでも打たれたい気分だ。空は真っ白な雲が優雅に青い海を泳いでいて、降ってきそうにもなかった。
 ボクがボクであることを確認するためにここには何度も通っている。そのどの時よりも、喧騒から逃れ静寂に満ちたこの空気がボクを凍えさせた。
 そうだ、ボクのセカイはずっとこうだったじゃないか。
 温かい居場所を与えられてそこに浸るようになっていたせいか、独りになったことの寒さが骨身に染みてくる。

 どうしてボクは、孤独を感じているのだろう。

 望み通り彼に理解される一方で、それを嘆いてしまっているボク。矛盾した二つの存在が紛れもなくボクの中に同居している。
 ……そうじゃない。自分を誤魔化すのはやめよう。
 仮面を付けたところでその本質は変わらない。ボクが「二宮飛鳥」であろうとしても、ボクはボクだ。ボクもまた移ろい変わるヒトでしかない。彼と出会えた「二宮飛鳥」で在り続けることは、それはただ「二宮飛鳥」を演じているに過ぎなかった。
 この想いを抱くことに興味が無さそうだと頭ごなしに否定され、こんなところで独り涙を堪えてるボクが……こんなに弱いボクこそが、ボクなんだ。

 ボクがボクであることに見向きもせず、ボクが何者かを決定しようとする行為は――
 「二宮飛鳥」という存在を否定しているのと同じだ――

 出会ったばかりの頃、幸子に対してボクは「輿水幸子」という記号から彼女を判断しかけた。今なら解る。あの時幸子へ抱いたイメージは、彼女の本質に迫るものではなかったことを。
 ボクは……そう、それと同様のことを彼にされてしまったんだ。させてしまった、が正しいのかもしれない。
 仮面を付けることで弱い自分を隠して生きてきた。解り合いたいのに、仮面を外せば彼の望むボクではなくなるだろうと、必死に彼と出会えた「二宮飛鳥」で在ろうとした。
 そのくせ、そんな自分を理解されずに泣いているボクとは、何なのだろう。

 「二宮飛鳥」じゃないボクは、いったい誰だというのか。

「飛鳥……」

「……っ」

 追ってきたようだ。控えめな調子で彼がボクを呼んでいる。
 その声にボクは振り向かなかった。彼が呼ぶボクは「二宮飛鳥」のことであり、こんなところで泣いているのは「二宮飛鳥」ではない。
 それなら……合わす顔なんて、あるはずないじゃないか。
 声、ちゃんと出るかな。

「……どうしたんだい」

「どうしたって、俺はお前を……」

「キミが探しているヤツはきっと、ここにはいないよ。今は、ね」

 やめろ――

「心配しなくていい。すぐ……戻ってくるさ」

 何を言ってるんだボクは――

「キミは待っていればいい。いつものように、あのデスクでね」

 これからずっと演じていくつもりか、「二宮飛鳥」を――

「だから、早く往ってくれ。そこにいられたら……戻れないだろう?」

 ボクは此処にいる。今、此処に、いるのに――



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