過去ログ - 飛鳥「ボクがエクステを外す時」
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87: ◆KSxAlUhV7DPw[saga]
2016/06/08(水) 23:50:12.24 ID:6KGN/Wqko

 見つけてくれるって、言ったのに。
 自ら隠しておいてどの口が、とキミは思うだろう。でもボクは見つけて欲しかったんだ。伝えることも出来ない、この想いを秘めてしまったボクのことを。仮面の下のボクを。
 キミなら解ってくれると期待して。
 キミとなら解り合えると、勝手に勘違いして。
 ボクは彼に裏切られたと思っているのだろうか。こんなこと、この世界ではよくあることじゃないか。
 世界はボクのことなんて見向きもしていなかった。
 だからこそ、ボクのセカイの中心にいるキミには、ボクのことを見て欲しかった。
 見つけて欲しかった。
 見つけて、欲しかった……!

「…………ひっ、……ぐ」

 嗚咽を噛み殺し、目元を乱暴に拭う。
 もう戻らなくては。彼のもとへ、「二宮飛鳥」として。
 今日だって事務所に遊びに来たわけじゃない。レッスンの始まる時間を過ぎてしまっている。
 最後に一度、流れる雲の行方を追いながら、深呼吸でもしておこう。
 ゆっくりと息を吸い、形状を留めずあるがまま流れていく雲を霞んだ視界で眺めながら、蓋をするように仮面を付け直すんだ。
 全ての息を吐き出すと一緒にこの想いも吐き捨てられたら、迷いなくボクは「二宮飛鳥」へ戻れるのにな――


「――か、飛鳥! 飛鳥ああああ!」


 慌ただしく駆ける足音と共に、再び静寂が破られる。
 思わず振り返りそうになった。まだ心の準備は終わっていなかったせいか、身体が固まってしまっている。
 いや、そんなことよりも……どうして彼はここにいるんだ。彼はボクを、「二宮飛鳥」を待っているんじゃなかったのか?

「飛鳥!」

 息を切らし、乱れた呼吸を捩じ伏せてボクの名前を呼んでいる。

「……っ、飛鳥!」

 何度も、ボクに呼びかける。

「……。飛鳥」

 ボクとの距離を詰めながら、彼はボクの名前を口にするのをやめない。

「飛鳥」

 そして、彼はボクのすぐ後ろまで近寄っていた。
 もう声を大きくしなくても充分に聞こえる距離だ。彼は何を求めてボクのもとに来たのだろう。それが解らないままではボクも振り向くに振り向けず、この事態に翻弄されるのみだ。
 遠く彼方で流れているあの雲のように、流されるまま。
 膠着状態はそう長くは続かなかった。あと一歩進めばぶつかる、そんなところまで彼に詰め寄られ、

「……飛鳥」

 ボクにそっと腕を回し、後ろから彼に肩を抱き寄せられた。
 腕を掴むことすらも……躊躇わせていたはずなのに。

 それは決して、遅くなったボクを捕まえて逃がすまいとする意思表示などではなかった。
 加減が解らないのだろう、ボクの肩を抱く力は弱めで優しくありながらも変に力んでいる。
 まるで壊れ物を傷付けまいとするように、嫌なら振りほどいてくれという彼の意思が伝わってきた。

 ……参ったな、これでは逃げたくても逃げられじゃないか。

 心ごとまんまと囚われてしまった。ボクの肩を抱くなんて、彼にそうさせるだけの心境の変化があったのだろう。
 彼が「二宮飛鳥」を待たずに迎えに来た理由、それをボクは知りたい。
 知らなくてはいけない。「二宮飛鳥」として、そして、ボクとしても。
 それがボクにとって歓迎されるべきものなのか、さらなる絶望へ叩き落とすものなのか――不安は尽きないけれど。
 キミにそうされるの、ボクは嫌じゃないみたいだから。
 少しだけ……このままでいたかった。
 ねぇ。いい、よね?


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