22:名無しNIPPER[saga]
2016/05/28(土) 04:13:09.33 ID:UgTt9Mf00
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花に興味なんてなかった。
ただ、放課後の公園でたまに見かけるその人は、それ以外のものは目に入らないようだった。
公園中の花壇から花壇へ、かとおもえば木の幹へ、せわしなく飛び回っている姿は、元気いっぱいのチョウかミツバチみたいだった。
そうやってぼーっと姿を追っていると、ふと、目が合って。
慌てて目を逸らしたのもお構いなしに近づいてきて、こんにちはーって。
そこから先は、完全に向こうの世界だった。
興味あるの? この花みたことある?
なに色の花が咲くと思う? 花言葉は知ってる?
いっぺんにまくし立てられた。
興味ないです、とはとても言えなかった。うんうん頷きながら話を聞いた。
可愛らしい女の人に話しかけられることへの下心ももちろんあったけれど、不思議なことに、それだけでもなかった。
今まで気に留めたこともなかった公園のプランターや街路樹が、灰色の景色に過ぎなかったものが、彼女の語り口で彩色され、活き活きと光を湛え始めたからだ。
大学に通いながら、ボランティアで植物の世話をしているとのことだった。でも、自己紹介なんてそっちのけで、彼女は花の紹介をした。
自分のことのように嬉しそうに、花の生長を喜び。
自分のことのように誇らしげに、花の綺麗さを自慢した。
部活もしてなくて、特に行くあてもない自分は、放課後公園を横切って帰るようになり、あいばさんがいる日には植物の話を聞くのがもっとも有意義な過ごし方となっていた。
本当に、その人は植物の話ばかりしていて――でもいずれは、もっと違う話ができるものと思っていた。
そうやって、公園の植物の名前をある程度覚えた頃――何気なく見遣ったテレビ画面に、その人が写っていて、目を疑った。
最近よく名前を聞くアイドルだと思っていたが、まさか同一人物だとは思わないから。
というか、名前はそこではじめて知った。彼女は――相葉さんは、自分のことなんかそっちのけだったから。
そこでようやく、最近彼女が公園に姿を見せていないことと事情が一致した。
このところの花の世話は、別のボランティアの人がやっているようだった。
でも、この辺に住んでいるのだろうから、近いうちにまた会うこともあるだろう。
そうしたら、まずはどの話から切り出そうか……そんなことを考えながら、今日の放課後も、公園に足を運ぶ。
そろそろ切り出したかったんだ。自分も手伝います、って。
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