過去ログ - 荒木比奈「最初の一歩が踏み出せなくて」
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18:名無しNIPPER[sage saga]
2016/05/26(木) 23:53:21.92 ID:SxnKCCpl0


PM4:30 都内 公演会場

 繰り返しになるが、比奈はアイドルについてさほど詳しいわけではない。
 漫画を書く時に付けっぱなしにしているTVで、時折姿を見る程度だ。
 Pとの隣人付き合いが始まり多少詳しくはなったものの、それでも普通の人より多少は知っている、という程度だ。
 だからアイドルが行うライブについても、さいたまスーパーアリーナとか、そういう大きなステージで歌っている姿しか見たことがなかった。

(……あんまり大きくはないっスね)

 収容人数は恐らく、多めに見積もって2000人ほど。それは、アイドル戦国時代と呼ばれ多くのライバルがいる今の時勢を考えれば大きい箱なのか、それともそれだけアイドル文化が隆盛する中アリーナを取れないほど小さいと考えるべきなのか、比奈にはよく分からない。
 ただそれなりにファンが付いている、という話を各所で聞いているので、大きさとしては十分なのかもしれない。
 高い位置からステージを見下ろした比奈はなんとなく、歴史の教科書を思い出した。

(なんて言うんでしたっけ、鍵穴みたいな形の……)

 前方後円墳、という単語を思い出したのは、それからしばらく後のことだった。
 会場自体は円形で、座席はドーナツを3分の2に切ったような形に配置されている。残った3分の1と、ぽっかり空いたドーナツの穴の部分を合わせた鍵穴の形にステージが置かれている。
 比奈の席は、どうやら結構良い席のようだ。最前列ど真ん中というわけではないがかなり前の方だし、端に寄っているというわけでもなく中央に近いと言える席だ。

(……買ったら幾らするのかは考えないでおきましょ)

 きっとそこそこ良い値がするんだろうなぁと思いながら席に座って開演を待つ。まばらだった座席はほどなくして埋まり、満員に近い状態になっている。
 一瞬ざわざわと騒がしくなったのでそちらのに目を向ければ、『新田美波』と書かれた法被を着た男達が集団で入ってきたところだった。
 どうやら美波のファンクラブらしい。

『――今度、所属が変わって、C-BLUEを出て、新しいプロデューサーさんのところに行くことになったんです 』

 美波の言葉を思い出す。
 ――そうか、つまり今回の公演が、美波がC-BLUEの正規メンバーとして活動する最後の公演になるのか。

 つまりこれは、美波にとって、旅立ちの――

 ブーッ、と音がして、会場の明かりが落ち――海洋公演セイラーマリナーズは、幕を開けた。






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