35:名無しNIPPER[saga]
2016/05/31(火) 21:28:56.41 ID:6D4QUdRpo
翌日。
楓が仕事に出ている間、美優は仕事を早々に切り上げ、買い物も済ませて、蘭子用のMF(Manifold Frame:IDOLにおけるアプリケーションの一種)を苦い顔をしながら必死に弄っていた。
「美優さんもそろそろアシスト無しのダイビング、マスターした方がいいですよ」とは今朝の楓の言葉である。
"素潜り作戦"と勝手に名づけられたこの作戦は、要するに美優がIDOLの操作を覚える訓練だった。
話によると、アカウントに付属していたMFにはアシスト機能が対応してないので、自力でダイビングしながら操作するしかないのだという。
意識を集中し、ハンドル(IDOLの操作用デバイス)を握りながら画面を見つめる。
手始めに蘭子の体重と身長の情報を呼び出そうとした。
……しかし切り替わったのは蘭子の位置情報だった。失敗である。
フィードバックレベルを少し上げてみる。
今度は脳内に返ってくる「感覚」が多すぎて混乱した。
美優(……はあ。やっぱり向いてないと思うんだけどなぁ、こういうの)
補足説明。
現代主流の量子基盤用インターフェイスはハンドルと呼ばれる。
このハンドルを操作するのはかなりコツがいる。
旧世代の電子型コンピュータにおけるキーボードのタイピングのようなものだが、ハンドルはそれを握るユーザーの意識(個有振動)を直接連動させて操作するため、不慣れだとノイズが混ざったり目的でない領域に踏み込んでしまう事がある。
この操作方法は、スペースネット(いわゆる共感覚空間)に意識を潜らせることからダイビング(潜水)と呼ばれる。
使いこなせると、ダイビングの境界を自在に広げて情報が自分の体の一部になったような感覚を得られるという。
「車の運転と一緒ですよ。慣れればどうってことないですから」と楓は言うが、実際にはセンスも必要で、アシスト機能がないと満足に使いこなせない人は多い。
なお、メーカーがOSを自動更新する度に、感覚が今までと違うとユーザーから不満の声が上がるのもお約束である。
この日、美優は"個有振動安定度"というよく分からないパラメータをIDOLのホーム画面に常駐させる事に成功した。
成果はそれだけだったが、なんとなく達成感があった。
帰宅した楓に報告すると嫌味なくらいに褒められた。
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