過去ログ - 楓「命短しススメよ乙女」
1- 20
89:名無しNIPPER[saga]
2016/06/01(水) 00:41:12.63 ID:49W9hqJ1o
文香「元々、ここは図書館でした。遥か昔、全国的な図書館民営化の流れで、いくつもの価値ある図書が利益至上主義のもとに淘汰され、それを見かねた私の祖父がこの街の図書館を買い、こうして人類の共有財産である知的文化の保存を目的とした書店が作られました。それ以来、鷺沢の者が代々ここの経営者を務めています。

文香「しかし父の代で、この書店に異変が起こりました。どんなに本を並び替えても、次の日には別の場所に本が移動しているという現象が頻繁に起きるようになったのです。次第にそれは日毎ではなく時間毎、分毎に変わり、さらには本棚や店の構造まで変化してゆき、いつしかこの店は誰にもその全容が分からない迷宮と化してしまいました。

文香「さらに、いつの間にか注文した覚えのない本が並んでいたり、明らかに建物のスペースに収まりきらない長い通路が出来ていたり……建物の枠を超えて、本と空間が無限に増え続けていったのです。そんな奇怪としか言いようのない事態が次々に起こるので、とうとうある日、内部の本格的な調査が行われる事になりました。

文香「その時は私もまだ小さかったのであまり覚えていないのですが、中に入って行った研究者のうち、数人はまだ行方が分かっていないそうです。当時の店の中はまだそこまで複雑ではなかったらしいのですが……ただ、そうやって本棚の迷路に閉じ込められてしまった研究者たちに共通していたのは、みんな活字を食べて生きているような本の虫だったという……すみません、これはあまり本筋とは関係のない話でしたね。

文香「それから幾たびに渡って調査と研究が為された結果、当時開発されていた量子基盤のコアモジュールにある内部個有振動と、書店にある本棚と本の変移の周期的特徴が一致するという謎めいた関連が見られるようになりました。

文香「そして、この建物、この書店を観測所とし、情報の自己組織化、それらネットワークの自律的代謝、そして無限に広がっていく有界性カオス論的構造を元に、スペースネットの初期モデルが作られたのです。

文香「……ええ、厳密には今の共感覚空間とはまったく別のものです。実際、人々の意識を土台に成り立っているスペースネットと違い、この迷宮を作り出しているのは情報そのものなのですから。しかしそれも要するに、肉体が意識を生み出すか、意識が肉体を生み出すかの違いでしかありません。結局、本質的な部分では大して変わらないのだと思います。そう、例えば人間とドールのように……



<<前のレス[*]次のレス[#]>>
197Res/206.41 KB
↑[8] 前[4] 次[6] 板[3] 1-[1] l20
このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています。
もう書き込みできません。




VIPサービス増築中!
携帯うpろだ|隙間うpろだ
Powered By VIPservice