過去ログ - 【ガルパンSS】西絹代(30)「恋って、したことないんだよなぁ」
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名無しNIPPER
[saga]
2016/06/03(金) 22:46:44.63 ID:6GJ2ZMddO
「これが恋なのでしょうか」
ため息を書き写して、手紙を結んだ。その一文が宛先を奪ってしまった。
私は上着の内ポケットへ手紙を入れておいて、彼を見かけたときどきに胸元さすってみた。それで少しは具合がよかった。
22
:
名無しNIPPER
[saga]
2016/06/03(金) 22:47:58.36 ID:6GJ2ZMddO
そんなお遊びを続けているあいだに、彼は幼稚園へ姿を見せなくなった。彼だけじゃない、彼の息女も登園していないようだ。それとなく息子に訊くと「ビョーキ」と短い答えが返ってきた。
私は家へ帰ると、すぐに彼へ電話をした。
「入院しているんです」
「えっ……」
彼の言葉に一瞬気を失いかけたが、どうにか持ちこたえた。悪い想像とどこかで耳にした病の名前がぐるぐると頭に渦巻いた。彼は電話口にも私の様子を察したらしく、軽く笑って「胃潰瘍ですよ、すぐに治ります」と言った。それを聞いて、ひとまずほっとした。遅れて息女のことを訊くと、入院のあいだだけ預かってもらっているそうだ。
23
:
名無しNIPPER
[saga]
2016/06/03(金) 22:48:24.06 ID:6GJ2ZMddO
「大事でなくてよかったです……」
それから明日にも見舞いへ行くと告げて、私は電話を切った。
居間のほうから、私を呼ぶ息子の声がした。
「今は、仲良しじゃないもんな」
苦笑しつつ、居間へ向かった。
24
:
名無しNIPPER
[saga]
2016/06/03(金) 22:48:53.09 ID:6GJ2ZMddO
窓辺の花は微かに乾いていた。吹き込む風にかさかさとこすれ合った花びらが一つ離れ、シーツの上に落ちた。花を持ってこなくてよかった、と私は思った。
「お気遣いいただいて……」
紅茶の箱を棚へ置くと、彼は照れくさそうに頭を掻いた。顔色はあまり良いと言えないが、思っていたよりも元気そうで安心した。
傍の椅子へ腰掛けたはいいものの、なかなか言葉が思い浮かばなかった。
25
:
名無しNIPPER
[saga]
2016/06/03(金) 22:49:22.62 ID:6GJ2ZMddO
「入院と言うので、驚きました」
「本当に、大したことはないんです」
そう言って、彼は笑った。笑い返してすぐ、なぜだか耳のあたりがくすぐったくなり、私は目を伏せた。柄にもなく、もじもじと手遊びが止まなかった。
「貴方は……」
言いかけて、内ポケットの手紙に意識が集まった。
26
:
名無しNIPPER
[saga]
2016/06/03(金) 22:49:58.64 ID:6GJ2ZMddO
目を上げると、彼と視線がぶつかった。胸の底にある奔流が、喉元へせり上がるような気がした。それは悲しい音を纏っていた。
「もっと、早くに出会っていたらよかった」
独り言のように呟いて、私は再び目を伏せた。
風が吹いて、沈黙を攫っていった。
27
:
名無しNIPPER
[saga]
2016/06/03(金) 22:50:34.65 ID:6GJ2ZMddO
「西絹代隊長」彼は言った。「かっこよかった」
私は顔を伏せたままだったけれど、頬が熱くなるのを感じていた。同時に、代えがたい寂しさも。
「もう、戦車には乗らないのですか?」
彼は無邪気な子どものように訊いた。私もまた、無邪気に笑ってみせた。
28
:
名無しNIPPER
[saga]
2016/06/03(金) 22:51:02.25 ID:6GJ2ZMddO
「貴方は、ずっと前から私を知っていたのですね」
「すみません、僕が勇気を出していたら」
「いえ、いいんです」私はようやく顔を上げた。「いい思い出ができました」
胸元の手紙は、捨ててしまおう——彼を責める気には、とてもなれなかった。
「貴方が好きです。だから、さようなら」
以下略
29
:
名無しNIPPER
[saga]
2016/06/03(金) 22:51:28.10 ID:6GJ2ZMddO
私は感情の氾濫を悟られまいと、足早に病室を出た。
ドアを閉め、少し離れたベンチに身体を投げ、それからやっと涙を手放した。堰を切って、感情が指先へ巡った。
私は泣いた。行き場を失くしたことごとを、涙が押し流して、それで赦しを乞うように。
30
:
名無しNIPPER
[saga]
2016/06/03(金) 22:51:57.19 ID:6GJ2ZMddO
ようやく頬が乾いた頃に、傍を母娘が通り過ぎた。二人は、彼の病室のドアをノックした。
そこに私の入る隙間は、少しだってなかった。
悲しくも嬉しい彼の幸福は、私の願いに消えてしまうがいい。
31
:
名無しNIPPER
[saga]
2016/06/03(金) 22:52:23.58 ID:6GJ2ZMddO
私は涙を拭いた。恋は音速で通り過ぎたことを知った。
そして私は私の幸福へと帰った。
だから、これからの私は、不幸にも恋をしたことがないと言うことはないだろうに。
32
:
名無しNIPPER
[saga]
2016/06/03(金) 22:52:56.43 ID:6GJ2ZMddO
以上です。お付き合いいただき、ありがとうございます。
33
:
名無しNIPPER
[sage]
2016/06/03(金) 23:05:13.08 ID:mBA8G5RSo
乙です!
34
:
名無しNIPPER
[sage]
2016/06/03(金) 23:06:09.58 ID:UzgK4Lsoo
乙
35
:
名無しNIPPER
[sage]
2016/06/03(金) 23:26:02.16 ID:nvGEu+SrO
乙であります
36
:
名無しNIPPER
[sage]
2016/06/03(金) 23:27:17.89 ID:XskXu5kQO
乙であります
37
:
名無しNIPPER
[sage]
2016/06/03(金) 23:47:20.25 ID:UM9cZfzkO
いい話だったけどガルパンである必要性がない
38
:
名無しNIPPER
[sage]
2016/06/03(金) 23:50:20.76 ID:2M+osmWT0
乙〜ガルパンって書いて無かったら読みに来なかったからなぁ・・・
39
:
名無しNIPPER
[sage]
2016/06/04(土) 00:38:18.74 ID:I5Fwtisco
乙
なんだろう興奮とは違うよくわからない感情がでた
40
:
名無しNIPPER
[sage]
2016/06/04(土) 01:15:19.77 ID:QcRzXZ8cO
乙
切ないな
41
:
名無しNIPPER
[sage]
2016/06/04(土) 03:07:45.82 ID:f/ykWl4NO
ガルパンを利用するなカス
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