過去ログ - 輿水幸子落下中
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1: ◆8ozqV8dCI2[saga]
2016/06/07(火) 21:42:04.86 ID:wyDFH4YB0
「……行くか」

左手にケーキの袋を持ちながら、目の前の家のインターホンを押す。

今日もこの家にやってきた。

家の人に挨拶をし、いつもの部屋の前まで案内してもらう。

家の人(今日は母親だった)は俺のことを恨めしそうな、哀しそうな、申し訳なさそうな目で見ながらも

「あの子を…よろしくお願いします」

静かにそう言ってリビングに戻っていった。

毎度のことながら、部屋の前に一人で残されるこの瞬間が一番胸を締め付けられる。

ざわめく気持ちを落ち着けるため、一度大きく深呼吸をする。

そして俺は目の前のドアに向かって声をかけた。

「幸子、来たよ」

ここは輿水幸子の家。

幸子が部屋から出なくなってから、今日でちょうど2ヶ月たった。


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2: ◆8ozqV8dCI2[saga]
2016/06/07(火) 21:46:11.49 ID:wyDFH4YB0
2ヶ月前、大きな合同ライブがあった。

事務所からも大勢のアイドルが参加し、みんな長い期間をかけてレッスンしていて、幸子も他のアイドルと同等かそれ以上にレッスンを完璧にこなしていた。

ただ少し根をつめすぎなようにも見えたので、一度だけ大丈夫かと聞いたりもしたけれど、幸子はいつもの自信に満ちた笑顔で大丈夫と答えていた。
以下略



3: ◆8ozqV8dCI2[saga]
2016/06/07(火) 21:50:26.47 ID:wyDFH4YB0
そしてライブ中、幸子は失敗した。

大失敗をした。

本人は大大大失敗をした、と思っているかもしれない。
以下略



4: ◆8ozqV8dCI2[saga]
2016/06/07(火) 21:52:39.46 ID:wyDFH4YB0
「恥ずかしい」

幸子は言った。

「恥ずかしいんです」
以下略



5: ◆8ozqV8dCI2[saga]
2016/06/07(火) 22:07:56.83 ID:wyDFH4YB0
ライブから帰ってから、幸子は逃げるように自分の部屋に入り、閉じこもるようになったらしい。

そして幸子の両親も幸子とはまともに会話ができないのだそうだ。

「期待に応えられなくてごめんなさい」と、そう言われたきり会話が続かないという。
以下略



6: ◆8ozqV8dCI2[saga]
2016/06/07(火) 22:11:03.91 ID:wyDFH4YB0
会話ではなくお話。

一方的で投げやりで意思の疎通はできていなくても、幸子は俺にだけは不満や苦しみを話してくれる。

幸子のお話をしてくれる。
以下略



7: ◆8ozqV8dCI2[saga]
2016/06/07(火) 22:13:37.64 ID:wyDFH4YB0
その後も時間を作っては、幸子に会いにきている。

他のアイドルには病気だと伝えているけれど、おそらくバレているだろう。

それでも俺は一人で通い続けた。
以下略



8: ◆8ozqV8dCI2[saga]
2016/06/07(火) 22:17:45.89 ID:wyDFH4YB0
「幸子、来たよ」

返事はなかった。

「……幸子?」
以下略



9: ◆8ozqV8dCI2[saga]
2016/06/07(火) 22:19:30.09 ID:wyDFH4YB0
しかしどうして今日はスマホなのだろう。

これまではずっとドア越しに話をしていたのに。

もしかして部屋の外にいるのだろうか。
以下略



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