10: ◆OVwHF4NJCE[saga]
2016/06/14(火) 21:41:11.16 ID:kuIBCr7H0
あれから、凛ちゃん達をバックダンサーに、時にバックコーラスに、何曲かを歌った。
Nocturne、つぼみ、Were the friends!、Nation blue……その他にも、色々な曲を。
それはまるで、私のアイドル人生の集大成のようだった。
「……さて。寂しいですけれど、とってもとっても寂しいし、哀しいですけれど、そろそろお別れの時間となってしまいました」
11: ◆OVwHF4NJCE[saga]
2016/06/14(火) 21:41:48.90 ID:kuIBCr7H0
「このライブの告知の時にお伝えしたように……私は、今日限りでアイドルを、芸能界を『卒業』します」
……そう、私は今日、アイドルを『卒業』する。
12: ◆OVwHF4NJCE[saga]
2016/06/14(火) 21:42:38.61 ID:kuIBCr7H0
モデルのままだったら、きっと体験できなかった世界。
一歩踏み出さなかったら、味わえなかっただろう煌びやかな世界。
……あの人が見つけてくれたからこそ、支えてくれたからこそ、楽しめた世界。
13: ◆OVwHF4NJCE[saga]
2016/06/14(火) 21:43:15.44 ID:kuIBCr7H0
美嘉ちゃんと凛ちゃんが、舞台袖へと戻っていく。ちらりと見えた凛ちゃんの目の端には、涙が浮いていたように見えた。
二人の事を見送って、私は深呼吸をする。
「聞いて下さい……『こいかぜ』」
14: ◆OVwHF4NJCE[saga]
2016/06/14(火) 21:43:56.61 ID:kuIBCr7H0
――それは文句なしに、今まで最高の、そして最高の『こいかぜ』だったと、私は今でも、そう思う。
15: ◆OVwHF4NJCE[saga]
2016/06/14(火) 21:44:33.20 ID:kuIBCr7H0
―――
――
―
16: ◆OVwHF4NJCE[saga]
2016/06/14(火) 21:45:32.18 ID:kuIBCr7H0
「ただいま。それにしても、高垣楓引退ライブのBD、か……ひょっとして、見るのは初めてじゃ」
ええ、と私は頷く。
自分のライブのBD。いつもは、頂くとすぐに反省の意味を籠めて見ていたのだけれど、これだけは、一度も見ていなかった。
17: ◆OVwHF4NJCE[saga]
2016/06/14(火) 21:46:01.04 ID:kuIBCr7H0
背広を脱ぎながら、Pさんは恥ずかしそうに頬を掻く。
私に掛かった魔法が解けて、普通の女性に戻ったあの日の夜。
プロデューサーは……ううん、私の王子様は、『ガラスの靴』を持ってやってきた。
それまで、好きだとかそういう気持ちを、お互いに口に出したことはなかった。
きっと、明確にしちゃいけない、アイマイなものじゃなければいけないと、そう思っていたから。
18: ◆OVwHF4NJCE[saga]
2016/06/14(火) 21:46:45.99 ID:kuIBCr7H0
「一つ、聞いていいかな」
Pさんが、ふと言う。少しだけ、今までよりも真剣な表情で。
「なんです?」
19: ◆OVwHF4NJCE[saga]
2016/06/14(火) 21:47:25.01 ID:kuIBCr7H0
私が笑ったのを見てか、Pさんも笑顔になる。
本当に、Pさんは優しい人だ。いつもいつも、こうやって私のことを気遣ってくれる。
アイドルと結婚して……いろいろ大変だったのはきっとPさんの方なのに。
だから、私も口をついて出てしまっていた。
20: ◆OVwHF4NJCE[saga]
2016/06/14(火) 21:48:05.83 ID:kuIBCr7H0
実際、いろいろ大変だったと聞いている。
引退自体は、結婚とは関係ない。引退は、純粋にアイドル活動に満足して、やめ時だと、そう思ったから。
けれど後々結婚が公になった時、多くの人は……特に、私の熱心なファンだった人は、そう考えなかった。
事務所に強迫まがいの手紙が届いたり、剃刀の刃が届いたり……そんな事があったと、凛ちゃんが心配して教えてくれた事もある。
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