過去ログ - 【モバマス】 I believe... -SS速報VIP

過去ログ - 【モバマス】 I believe...

↓ 1- 覧 板 20

6: ◆GqaPgSrZ/Q[sage saga　!orz]
2016/06/22(水) 07:56:11.76 ID:I7AYsZCz0
　この興行は、ただのライブステージではない。ライブバトルと呼ばれる、競技の要素を含めたものである。一度に二組以上のアイドルユニットがステージに登り、それぞれ歌とダンスを披露して競い合う。

　勝敗を決めるのは、会場へ来た観客たちであった。彼らは、より優れたパフォーマンスを行ったと思うアイドルユニットへ票を投じる。

　だがしかし、単純な実力勝負というものではない。ライブバトルはあくまでも興行であり、大差のつく決着は暗黙の了解として禁じられていた。重要なのは、今そのアイドルが、どの程度の相手とライブができるか、という点である。それが、先程の『勝ち負けに拘るもんでもない』という言葉の真意である。

以下略

7: ◆GqaPgSrZ/Q[sage saga　!orz]
2016/06/22(水) 07:56:46.91 ID:I7AYsZCz0
「それはそうと、お前の方はどうなんだ？」

　唐突に話を振られる。彼は、返事の代わりに、大きな溜息をついた。

「オーディションの審査用紙とビデオは全部渡しただろ？良い子はいたか？」

以下略

8: ◆GqaPgSrZ/Q[sage saga　!orz]
2016/06/22(水) 07:57:45.60 ID:I7AYsZCz0
「上はなんて言っているんですか？」

「つい最近までは、どうにかして新年度合わせでもう一ユニットくらいはデビューさせてくれ、なんて言っていたさ。でもまあ、やっぱり厳しい」

　今年のアイドルは不作である。これは、彼らのプロダクションに限った話ではなく、業界全体の話であった。

以下略

9: ◆GqaPgSrZ/Q[sage saga　!orz]
2016/06/22(水) 07:58:40.24 ID:I7AYsZCz0
　彼に、その気持ちはいまいち理解出来ない。いや、頭では想像できるが、心が追いついていなかった。

　――俺が、大した理由も野望もなく、アイドルのプロデューサーなんてものになったからかもな。

　彼は自嘲気味に、心の中で呟く。

以下略

10: ◆GqaPgSrZ/Q[sage saga　!orz]
2016/06/22(水) 07:59:23.98 ID:I7AYsZCz0
「いっその事、街中にスカウトにでも出てみたらどうだ？案外、そういう所で見付かるかもしれないぞ？」

「スカウト、ですか。経験ゼロの若造が連れて来た子を、採用してくれるんですか」

「そりゃあ、普通に考えたら厳しいが、今回は事情が別だ。もし反対されたらこう言ってやれ。『そういえば、俺の担当するアイドルはどこにいるんですかね？確か今年、他からのアイドルの移籍の話があったような』ってな」

以下略

11: ◆GqaPgSrZ/Q[sage saga　!orz]
2016/06/22(水) 07:59:55.17 ID:I7AYsZCz0
「先輩。あれ――」

「ああ」

　彼が声を掛けた時には、既に男はポケットから携帯電話を取り出し、何処かに電話を掛けようとしていた。

以下略

12: ◆GqaPgSrZ/Q[sage saga　!orz]
2016/06/22(水) 08:01:13.96 ID:I7AYsZCz0
　少女は緊張しているのか、マイクを両手で固く握り締め、ステージをキョロキョロと見回している。とてもではないが、ステージ慣れしている様子には見えない。

　安部菜々による挨拶と軽いトークが終わり、会場に、出演者変更のアナウンスが流れた。表向きは出演者急病のためとのことであったが、実際はどうであろうか。

「どうしかしたんですか、先輩？」

以下略

13: ◆GqaPgSrZ/Q[sage saga　!orz]
2016/06/22(水) 08:02:00.67 ID:I7AYsZCz0
「おいおい。あの子、勝つつもりらしいぞ？」

　驚きを超え、感心したように言う。

「小学生、ですかね？」

以下略

14: ◆GqaPgSrZ/Q[sage saga　!orz]
2016/06/22(水) 08:02:49.74 ID:I7AYsZCz0
「なんなら、ステージが終わったら声でも掛けてみたらどうだ？」

「そんな事言われても、一体なんて声を掛けろって言うんですか」

　口を閉じた後になって、先ほどの問いを言外で肯定してしまっていたことに気付く。

以下略

15: ◆GqaPgSrZ/Q[sage saga　!orz]
2016/06/22(水) 08:03:39.79 ID:I7AYsZCz0
「どう思う？」

　彼はその問いに答えられない。

　新米プロデューサーの彼からしても、どう見ても練習不足であった。声量は足りない、ダンスのキレも無い、体力も足りていない、笑顔もぎこちない。観客への視線の向け方や指先の伸ばし方一つを取っても、まともなレッスンを受けていない事がわかる。

以下略

16: ◆GqaPgSrZ/Q[sage saga　!orz]
2016/06/22(水) 08:04:17.54 ID:I7AYsZCz0
　あの子はきっと、票の集計が終わり、結果が発表されるその瞬間まで、自分が勝利する可能性が存在すると信じていたのだろう。彼にはそう思えた。そうでなければ、敗北に涙など流さないはずだ。それほどの実力差であった。

　ステージの上では、司会者が努めて明るく振る舞い、締めの挨拶をしていた。彼はステージの上の司会者を眺めながらも、その実、何も見てはいなかった。

　彼の頭の中では、先ほどまでステージに立っていた少女への、言葉では言い表せない奇妙な感情が渦巻いている。それはやがて、重しのように胸の中でわだかまった。

以下略

46Res/53.67 KB

↑[8] 前[4] 次[6] 板[3] 1-[1] l20

このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています。
もう書き込みできません。

VIPサービス増築中！
携帯うpろだ|隙間うpろだ