過去ログ - 【モバマス】 I believe... -SS速報VIP

過去ログ - 【モバマス】 I believe...

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26: ◆GqaPgSrZ/Q[sage saga　!orz]
2016/06/22(水) 08:10:45.74 ID:I7AYsZCz0
「あなたは、誰なんですか？」

　警戒したように言う。身体を向けたまま目だけで辺りを見回すが、やはり、彼ら二人以外に人気はない。

「ああ、いや。別に怪しい者じゃあないんだ」

以下略

27: ◆GqaPgSrZ/Q[sage saga　!orz]
2016/06/22(水) 08:11:27.05 ID:I7AYsZCz0
「…それで。一体、ボクになんの話があるんですか？」

　膝を抱えて座る幸子は、彼の方を見ようともせずに言う。

「そうだな…。具体的には考えていなかったな」

以下略

28: ◆GqaPgSrZ/Q[sage saga　!orz]
2016/06/22(水) 08:11:59.53 ID:I7AYsZCz0
「あなたも、勝てるはずがなかったって言うんですか？悔しがる方がおかしいって言うんですか？」

「そう言われたのか？」

　誰に言われたのか、とは訊かなかった。幸子は渋々といった様子で頷く。

以下略

29: ◆GqaPgSrZ/Q[sage saga　!orz]
2016/06/22(水) 08:12:37.62 ID:I7AYsZCz0
　彼はたっぷりと思案の時間を空け、再び口を開く。

「普通は、心が折れる。ステージから逃げ出しても、きっと誰も文句は言わないだろう。でも、君はステージに立って、歌った。しかも、勝てるつもりで、だ」

　そこまで言って、ふと疑問に思う。一体、この少女は、何故あの絶望的なステージに立つことができたのだろうか。勝てるはずもなく、負ければ事務所を辞めざるを得ない状況ならば、逃げ出すという選択肢を取るのが当然ではないだろうか。

以下略

30: ◆GqaPgSrZ/Q[sage saga　!orz]
2016/06/22(水) 08:13:13.01 ID:I7AYsZCz0
「それで、あんな風に――」

　彼の言葉が、途切れる。脳裏に過ぎったのは、目元を拭いながら袖へと小走りに下がる少女の顔と、その表情を見た時に抱いた言い知れぬ確信だった。

「…でも、泣いている君の顔は、悲しそうだったよな」

以下略

31: ◆GqaPgSrZ/Q[sage saga　!orz]
2016/06/22(水) 08:13:44.97 ID:I7AYsZCz0
「…ボクは昔から、みんなからカワイイと言われて育ってきたんです」

　少女は、雨音にかき消されそうな、か細い声で続ける。

「ボクの両親は、一人娘のボクを物凄く可愛がってくれました。何かあるたびに、幸子はカワイイ、幸子が一番だ、って。パパの仕事の関係の人も、幼稚園や小学校の先生も、出会う大人たちは、みんなみんな、ボクを褒めてくれました」

以下略

32: ◆GqaPgSrZ/Q[sage saga　!orz]
2016/06/22(水) 08:14:18.48 ID:I7AYsZCz0
　きっと、世ではありふれた話なのだろう。子供特有の無知さから、自分が特別であると勘違いをしてしまい、そして、これくらいの年頃で理想の自分と現実とのギャップに悩んでしまう。

　だが、この少女の場合、大きな問題が二つあった。一つの問題は、彼女の思い込みが、一般的なものよりも強く深かったこと。そして――

「だから、ボクはアイドルになろうと思いました。ボクが一番のアイドルになれば、それで問題はなかったんです。ボクがトップアイドルになって、ボクが本当に一番だと証明すれば、今まで周りの人たちが掛けてくれた言葉は、本物になるんです。そしてボクはアイドルのオーディションを受けて、採用されました」

以下略

33: ◆GqaPgSrZ/Q[sage saga　!orz]
2016/06/22(水) 08:14:56.90 ID:I7AYsZCz0
　そこからの話は、既に彼が電話で聞いた通りだった。

　この少女は一人で担当プロデューサーに何度も抗議をし、それを疎んだプロデューサーは、常識的には勝てるはずもない賭けを提示し、彼女はそれを飲んだ。

　勝てると信じて。

以下略

34: ◆GqaPgSrZ/Q[sage saga　!orz]
2016/06/22(水) 08:15:34.14 ID:I7AYsZCz0
「…ボクは、一体何を言っているんですかね」

　唐突に、幸子が口を開いた。

「さっき会ったばかりの人に、こんなみっともない話をして」

以下略

35: ◆GqaPgSrZ/Q[sage saga　!orz]
2016/06/22(水) 08:16:36.44 ID:I7AYsZCz0
　幸子は一瞬、きょとんとした顔をした後、あからさまに狼狽える。

「な、何を言っているんですか？ボクの話、聞いていたんですよね？ボクはアイドルを辞めて――」

「辞めたから、心置きなくスカウトに来たんだ。それとも、アイドルのプロデューサーが女の子に会いに来た理由が、他にあるのか？」

以下略

36: ◆GqaPgSrZ/Q[sage saga　!orz]
2016/06/22(水) 08:17:08.82 ID:I7AYsZCz0
「…嫌です」

　彼女はようやく、そっと一言だけ呟くように言う。

「…そうか」

以下略

37: ◆GqaPgSrZ/Q[sage saga　!orz]
2016/06/22(水) 08:18:00.66 ID:I7AYsZCz0
「…終わりじゃあなかった」

　少女の背中に向け、ゆっくりと、自分自身へと確かめるように言う。

「君のあの日のライブは、内容はどうであれ、俺の心を動かした。だから俺は、こうして君の前までやってきた。だから、終わりなんかじゃない」

以下略

38: ◆GqaPgSrZ/Q[sage saga　!orz]
2016/06/22(水) 08:18:41.08 ID:I7AYsZCz0
「…無責任ですね」

「そうかもな」

「せめてもう少し、気の利いた事を言えないんですか？」

以下略

39: ◆GqaPgSrZ/Q[sage saga　!orz]
2016/06/22(水) 08:19:59.48 ID:I7AYsZCz0
「…雨が、止みましたね」

「ああ」

「…あなたは、本気でボクが一番カワイイだなんて信じているんですか？」

以下略

40: ◆GqaPgSrZ/Q[sage saga　!orz]
2016/06/22(水) 08:20:37.61 ID:I7AYsZCz0
　幸子は彼から顔を逸らしたまま、無言で夕焼けの空を見詰める。

　雲の流れが速い。この調子ならば、上空にわだかまっている雲も、すぐに晴れるだろう。

　幸子はゆっくりと彼へ向き直り、震える口を動かす。

以下略

41: ◆GqaPgSrZ/Q[sage saga　!orz]
2016/06/22(水) 08:21:47.35 ID:I7AYsZCz0
　夕日を背に立つ幸子は、意を決し振り返る。だが俯いた顔は、陰になり伺えない。

「一つ、いいですか？」

　か細い声で問いかける。彼は、無言で頷く。

以下略

42: ◆GqaPgSrZ/Q[sage saga　!orz]
2016/06/22(水) 08:22:41.05 ID:I7AYsZCz0
「…それが、できるって言うんですか？」

「俺はできると思う。君は、できないと思うのか？」

「…できるに、決まってます」

以下略

43: ◆GqaPgSrZ/Q[sage saga　!orz]
2016/06/22(水) 08:23:14.76 ID:I7AYsZCz0
「一つ目！あなたはボクのプロデューサーになるんですから、ボクのために毎日毎日馬車馬のように働かないとダメなんです！ボクがトップアイドルになるまで、休みなんてないと思って下さい！」

　人差し指に続けて、中指も立てる。

「二つ目！ボクのプロデューサーなら、一年三六五日、ボクのカワイさを証明する方法を考え続けないとダメなんです！ずっとずっと、ボクの事だけを考え続けるんです！」

以下略

44: ◆GqaPgSrZ/Q[sage saga　!orz]
2016/06/22(水) 08:23:50.70 ID:I7AYsZCz0
「親御さんにはどうする？」

「…大丈夫です。ボクから話をすれば、きっと認めてくれます」

「一度、実家には帰るのか？」

以下略

45: ◆GqaPgSrZ/Q[sage saga　!orz]
2016/06/22(水) 08:24:56.05 ID:I7AYsZCz0
「…そうか。じゃあ、とりあえず駅前まで行くか。この時間でも、タクシーの一台二台は捕まるだろ」

　先導して歩き始める。二歩目を踏み出したところで、袖を引かれる。

　振り返ると、片手で封筒を抱えた幸子が、指を引っ掛けるように彼のスーツの袖を掴んでいた。

以下略

46: ◆GqaPgSrZ/Q[sage saga　!orz]
2016/06/22(水) 08:26:35.40 ID:I7AYsZCz0
おわり。
一度も転びも躓きもしなかった人生での初めての挫折が、自分の存在を全否定するような大きなもので、辛くて悲しくてどうしようもない。そんな時、自分を全肯定し、一番欲しかった言葉を掛けてくれる人が現れてしまい、後々重依存になってしまうという、割と闇の深い話。
一体この後、幸子はどうなってしまうのか？諸々の伏線や設定は全て投げ出して終わり。だって長いし。
とりあえず、縦書き対応の某所にも載せる。横書きはダメだ。

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