1:名無しNIPPER[saga]
2016/06/30(木) 23:26:25.35 ID:4Q6l07Joo
怒ってばかりの人がいた。
彼はいつでも怒ってた。
年がら年中朝から晩まで怒っていたし、多分夢でも怒ってた。
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2:名無しNIPPER[saga]
2016/06/30(木) 23:27:05.36 ID:4Q6l07Joo
別に大袈裟なんかじゃない。
朝は鶏の朝鳴きに怒鳴り返して飛び起きる。
鶏よりよっぽどうるさくて、村のみんなはこっちの方で目を覚ます。
3:名無しNIPPER[saga]
2016/06/30(木) 23:27:32.07 ID:4Q6l07Joo
彼は目に映る全てが気に入らない。
最近取っ手のとれた鍋も不味いスープも軋むドアも気にいらない。
畑への道は相変わらずでこぼこ歩きにくいし、野菜の葉につく害虫もちっとも減ってくれやしない。
4:名無しNIPPER[saga]
2016/06/30(木) 23:27:58.83 ID:4Q6l07Joo
一日を終えて毛布にもぐり、彼は天井を睨みつける。
まるでそこに親の仇がいるかのように。
じわりと夢に落ちるまで、彼はじっと睨んでる。
5:名無しNIPPER[saga]
2016/06/30(木) 23:28:28.68 ID:4Q6l07Joo
彼は寝ている間も怒ってる。
なぜ分かるのかというと、彼が寝言を言うからだ。
むにゃむにゃとつぶやき怒鳴るその内容は、どれも尖ったものばかり。
やれ「くたばっちまえ」だの「死んじまえ」だの、あまり感心できるものじゃない。
6:名無しNIPPER[saga]
2016/06/30(木) 23:28:54.76 ID:4Q6l07Joo
彼は目に映る全てが気に入らない。
いつも青筋立ててしかめ面のいかり肩。
歩くときは地面をかかとでえぐるよう。
7:名無しNIPPER[saga]
2016/06/30(木) 23:29:27.87 ID:4Q6l07Joo
「ごきげんいかが怒りんぼさん」
横からの声に、彼はじろりと目を向ける。
そこには栗色の髪の少女が立っていて、こちらをにこにこ見上げてた。
8:名無しNIPPER[saga]
2016/06/30(木) 23:29:57.59 ID:4Q6l07Joo
今は畑仕事に行く途中。
最近の雑草は元気が良くて、少し目を離すだけでぐんぐん伸びる。
手早く取ってやらなきゃうまくない。
9:名無しNIPPER[saga]
2016/06/30(木) 23:30:30.38 ID:4Q6l07Joo
「うるさいついてくるんじゃない!」
彼はとうとう怒鳴ってしまったけれど、少女はきゃーと喜ぶだけ。
農具を振り上げてみても笑いながら見上げてくるだけで動じない。
10:名無しNIPPER[saga]
2016/06/30(木) 23:30:56.62 ID:4Q6l07Joo
彼はこの娘が大嫌い。
なれなれしいのが気に入らない。
生意気に大人をからかってくるのが気に入らない。
でも何よりも気に入らないのは、
11:名無しNIPPER[saga]
2016/06/30(木) 23:31:23.17 ID:4Q6l07Joo
笑ってばかりの少女がいた。
彼女はいつでも笑ってた。
年がら年中朝から晩まで笑っていたし、多分夢でも笑ってた。
12:名無しNIPPER[saga]
2016/06/30(木) 23:31:50.09 ID:4Q6l07Joo
彼は笑っていない彼女を見たことがない。
村長の家からはいつも彼女の明るい声が聞こえてきて、喧嘩する声なんて聞こえてこない。
泣き声なんて言わずもがなだ。
13:名無しNIPPER[saga]
2016/06/30(木) 23:32:15.92 ID:4Q6l07Joo
好かれているって大きな武器だ。
いつもは彼を遠巻きにしている村の人たちも、少女が危険となれば黙ってないだろう。
それは望むところじゃない。
だから彼は我慢してる。
14:名無しNIPPER[saga]
2016/06/30(木) 23:32:42.15 ID:4Q6l07Joo
彼女は毎日彼の後をついてきて、仕事の様子を眺めてる。
昼にはお弁当を広げながら眺めてる。
ニンジンを引き抜く彼の様子を面白そうに眺めてる。
15:名無しNIPPER[saga]
2016/06/30(木) 23:33:08.72 ID:4Q6l07Joo
彼女は結構前から彼につきまとってた。
面白そうにつきまとってた。
何がそんなに面白いのか。
彼はあるとき訊いてみた。
16:名無しNIPPER[saga]
2016/06/30(木) 23:33:35.62 ID:4Q6l07Joo
「怒りんぼさん、今日うちのウィギーちゃんいじめたでしょ」
ウィギーというのは村長さんちの鶏だ。
その鳴き声は、毎朝怒りんぼさんを怒らせる。
17:名無しNIPPER[saga]
2016/06/30(木) 23:34:02.21 ID:4Q6l07Joo
「大変そうだね手伝おうか?」
野菜の入った箱を運ぶ彼を見て少女が言った。
だっと近寄ってくるけれど、彼はしっしと追い払う。
18:名無しNIPPER[saga]
2016/06/30(木) 23:34:28.51 ID:4Q6l07Joo
「いいと思ったのになー」
帰り道を歩きながら彼女はぼやいた。
彼は黙って歩き続ける。
19:名無しNIPPER[saga]
2016/06/30(木) 23:35:01.29 ID:4Q6l07Joo
「隣の隣の村が大変らしいね」
ある日の木陰の下から少女が言った。
彼は返事をしないので、彼女は一人でしゃべり続ける。
20:名無しNIPPER[saga]
2016/06/30(木) 23:35:28.35 ID:4Q6l07Joo
「……村長はなんて言ってる?」
「すごく怖い顔してるよ。怒りんぼさんそっくりな顔」
眉間にしわを寄せる顔真似をする。
21:名無しNIPPER[saga]
2016/06/30(木) 23:36:05.65 ID:4Q6l07Joo
彼はその笑顔を見ながらふと訊ねた。
「お前はなんでいつも笑ってるんだ」
「え?」
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