37:名無しNIPPER[saga]
2016/06/30(木) 23:43:52.81 ID:4Q6l07Joo
「お医者さんがね、もう長くないって言うの」
「……」
「嘘だぁって言っても笑ってくれないの。ひどいよね」
「……」
38:名無しNIPPER[saga]
2016/06/30(木) 23:44:44.45 ID:4Q6l07Joo
「ねえ怒りんぼさん、あの日みたいに手を握って」
差し出された震える手を彼は両手で握りしめた。
彼女は目をつむって「あったかい」とため息ついた。
39:名無しNIPPER[saga]
2016/06/30(木) 23:45:11.12 ID:4Q6l07Joo
その夜、いつも笑っていた少女が息を引き取った。
彼は自分の部屋の暗がりで、いつまでも闇を睨んでいた。
40:名無しNIPPER[saga]
2016/06/30(木) 23:46:04.11 ID:4Q6l07Joo
朝、少女のお墓の前に立った後、彼は村を後にした。
村は病が過ぎ去った後の悲しみで、彼が出ていったことに気づきもしなかった。
41:名無しNIPPER[saga]
2016/06/30(木) 23:46:34.13 ID:4Q6l07Joo
村から出た彼はひたすら北を目指した。
叩きつけるような雨の中を、全てを吹き飛ばすような風の中を、ただひたすら北を目指した。
北には世界の果てがあり、とてもとても高い山がそびえているという。
42:名無しNIPPER[saga]
2016/06/30(木) 23:47:00.01 ID:4Q6l07Joo
切り裂かれるような寒風の中、彼は一心不乱に道を登った。
あまりに寒さが厳しくて、彼は体の感覚を失った。
ぼうっとしたまま歩いているとやがて絶壁に突き当たる。
どんなにあたりを探ってみても、道の続きはどこにも見つからない。
43:名無しNIPPER[saga]
2016/06/30(木) 23:47:26.67 ID:4Q6l07Joo
しばらく呆然と見上げた後に、彼は激怒の叫びを上げた。
感覚の消えた右腕を、岩石の壁に叩きつける。
「神よ! なぜあの娘を殺した!」
44:名無しNIPPER[saga]
2016/06/30(木) 23:48:32.31 ID:4Q6l07Joo
声は吹雪にかき消された。
自分にさえも聞こえていなかった。
彼は壁に指を食い込ませた。
45:名無しNIPPER[saga]
2016/06/30(木) 23:49:05.02 ID:4Q6l07Joo
「神よ! なぜ俺の家族を奪った! なぜ俺を一緒に連れて行かなかった!」
彼がまだ幼かったころ、やはり村では病が流行った。
両親と妹は死に、彼だけが生き残った。
46:名無しNIPPER[saga]
2016/06/30(木) 23:49:35.24 ID:4Q6l07Joo
喉が熱い。
目が熱い。
視界は白く濁っている。
47:名無しNIPPER[saga]
2016/06/30(木) 23:50:05.99 ID:4Q6l07Joo
「怒りんぼさん、久しぶり」
声がする。どこか遠くから。
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