過去ログ - 開かない扉の前で
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921:名無しNIPPER[saga]
2017/11/24(金) 01:00:50.77 ID:pmjGcbbto

 だから僕たちは、正しさなんて言葉とはさっさと手を切ってしまえばいい。
 正しさとか、間違いとか、そんな言葉遊びに付き合ってやる必要なんてない。

 それは単に、「それがあった方が円滑に話が進むから」という、ただそれだけのルールに過ぎない。
 サッカーを円滑に進めるために、「ボールに手で触れてはいけない」とルールを決めておかなければいけないのと同じだ。

 誰かがはじめたその遊びのルールのなかに、僕たちはいる。

 ―― そのうえで、けれど、僕は僕を許せない。

 だったら、なんて言いたいの? ざくろはそう言った。

「――もっともらしいことを言って、正当化しようとするんじゃねえよってこと。
 たとえ誰に傷つけられたにせよ、順番がどうだったにせよ、ざくろ……"きみ"も刺した。
 たしかにきみも傷つけられた。でも、"それとこれとは別"なんだ」

 ざくろは短く嘆息して、やはり笑った。

「肝に銘じておく」と言ったけれど、どうやらその気はなさそうに見える。

「それで――あなたのそれは、審問ではないの?」

 どうだろうな、と僕は思った。

「もう、行くね」とざくろは言った。

「あなたと話してると……とても、胸が、ざわざわして、落ち着かない」

「じき落ち着くよ」

「……どうして?」

「さっきのきみたちには、そんな様子なかったからな」

「……そう、そうね」

 それからざくろは、ゆっくりと瞼を閉じた。
 苦しそうに、胸のあたりを手で抑えていた。 
 その指先が静かに体を昇っていく。

 彼女の爪が首筋に力強く食い込んでいくのを、僕はぼんやりと眺めている。

「消える……いつかは、消える。いずれにせよ、血は流れているもの」

 言い聞かせるようなその響きが、静けさにこだましたように思えた。
 僕は窓の外を見下ろしている。

 ふと、沈黙が静寂に変わった。

 振り返ると、彼女はいなくなっていた。




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