過去ログ - 開かない扉の前で
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950:名無しNIPPER[saga]
2017/11/28(火) 01:16:28.12 ID:OSRTiBSYo

◆(K/c)



 突き飛ばそうとする誰かを、気付けば組み敷いていた。

 車はブレーキすら踏まずに通り過ぎていく。

 横断歩道の信号が青になった。 

 誰もが呆然としている。

 俺に抑えつけられた誰かも、音に驚いて振り向いたこちらの碓氷遼一も、
 あちらで眺めているしかなかった碓氷遼一も、俺自身でさえも。

 頭で考えたことなんて、そんなに多くない。

 でも、嫌だった。

 目の前で、大事な人の大事な人が死ぬのも、誰かを見殺しにして生き延びるのも、
 そんなふうに生きていく自分も、嫌だった。

 子供のわがままのような感情だとわかっている。

 理屈なんてあったもんじゃない。

 それでも、どうして、どうして俺が“そんなこと”に巻き込まれなきゃいけないんだ。
 誰かが死ぬとか、殺されるとか、どうしてなのか知らない、わからない。そんなの、俺には関係ない。

 どうしてそんなものを強いられなければいけない?

 俺はただ、もっとシンプルに生きていたいだけだ。
 小難しい利害なんて、向いていない。
 正しいとか、間違っているとか、そんなものに振り回されたくない。
 
 この結果が、より悪い結果を引き連れてきたとしても、俺は、こうするしかにあ。

 たとえ、こうしたことで俺自身が消えてしまっても、愛奈と一緒にいられなくなっても、
 こうしなかった俺のまま愛奈と一緒にいるよりは、ずっと愛奈の方を向いていられる気がする。
 
 会えなくなったとしても。
 
 あの木々の遊歩道、夜のコンビニ。
 それはたしかにあったことだ。

 俺は、それを知っている。

 たとえ、消えてしまったとしても。
 
 ――存在するのとは違う形で、傍にいる。
 
 たくさんの言葉が、声が、音が、景色が、急に胸をいっぱいにして、
 気付けば俺は泣いていた。




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