149: ◆FlW2v5zETA[saga]
2016/08/09(火) 15:27:14.58 ID:8dWkI+gE0
そして数日を経て、合宿当日。
迎えのバスは、隣の鎮守府から合同で発車する形となり。
夕張はそこに向かうべく、一人電車に揺られていた。
天気は快晴であり、実に爽やかな朝。
イヤホンからはお気に入りの音楽が流れ、彼女は大変ご機嫌な様子である。
「ねー♪そのてーをーたとーえ♪」
電車を降り、周りに人がいないと思った彼女は、調子っぱずれに歌を口ずさむ…が、不意に反対のホームにいたサラリーマンと目が合い、思い切り赤面してしまった。
これは恥ずかしい。同行者がいたら穴に入りたい程だ。
と、考えた辺りで、彼女はある事に気付く。
“そう言えば、今回他に誰かいたっけ……?”
隣の鎮守府へ現地集合と言われており、彼女は同行者の有無を確認していなかった。
上着に四つ折りして入れたのは、バス集合関連のプリントのみ。駅は出てしまったし、今からリュックとファイルを開けて資料を見直すのも手間だ。
余裕を持って到着したいと考えていた彼女は、ひとまず現地へと急ぐ事とした。
現地へ到着した夕張は手続きを済ませ、集合場所である駐車場にいた。
今回は艦娘のみの合宿のようで、見慣れない女性達がポツポツと集まり始めている。
「○○鎮守府、田中キヨミさーん。」
「はい。」
知らない名前が呼ばれたかと思えば、とある艦娘が係員に身分証を見せていた。
艦娘同士は艦名で呼び合うのが通例なのだが。
実は本名の秘匿義務は無く、一種のコードネーム兼役職名のようなものである。
立場も含め分かりやすくなるよう、一つの鎮守府内では通常、艦名で呼び合う事が推奨されている。
しかし今回は合同合宿の為、艦名が被らないよう本名で通す模様だ。
そう言えば、自分はまだあまり他の艦娘の本名を知らないな……と思っていた時、とある名前が呼ばれた。
「××鎮守府、川本ミユさーん。」
「あ、はーい!」
自分の名前が呼ばれ、夕張は首に下げた身分証を見せた。
一足先にバスに乗り込み時計を見ると、まだ出発まで30分はある。
外を見れば、また後続の人だかりが増えている様子だ。
そうして点呼の度に別の鎮守府の名が呼ばれていたのだが、10分ほど過ぎた辺りで、とある名前が呼ばれた。
「××鎮守府、岩代ユウさーん。」
聞こえてきたのは同じ鎮守府の、知らない名前だ。
誰だろうか?まあいい、これを機会に仲良くなれば良いではないか。と考えつつ入り口を眺めていると、まず一列目の座席越しに、黒髪が目に入る。
“黒髪……誰だろ?いや、まさかねぇ…え…?えーーーーーーっ!?”
そしてその影が段差を登り、フロアに現れた時。
夕張は、ぽかんと開いた口をごまかす事すら出来なかった。
「あれ、夕張ちゃんも来てたんだー?おはよ。」
「北上、さん……おはようございます…。」
彼女達にとって、それはそれは、実に濃厚な一週間が幕を開けた瞬間であった。
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