過去ログ - 北上「離さない」
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247: ◆FlW2v5zETA[saga]
2016/09/06(火) 01:34:36.43 ID:0cI4rqiK0

車は駅前のメインストリートを通り、商店街はクリスマスムードの装飾がちらほら見える。
もうそんな季節か、と一年の早さを感じつつ、彼は窓からその景色を眺めていた。

そして街外れに出ると、車はとある大きな公園に停まった。

日はほとんど暮れ、随分遠くの方に橙が残るのみ。
どうしたのだろう?とケイが考えていると、北上は彼のコートの袖口を、キュッと掴んだ。


「こっちだよー。お、ぼちぼちだねー……ほら!」


17時の鐘が鳴った瞬間、二人の前には鮮やかなイルミネーションが広がった。
夕闇に浮かぶ光の芸術は、日常から離れた神秘的な光景を彼らの目に焼き付ける。

その光景に、ケイは思わずこんな声を漏らす。


「……すげえや。」
「ふふー、そろそろ始まってるって聞いたからねー。せっかく近く来てるし、ついでに見よっかなーってさ。」


“ケイちゃんとね”、とは。遂に北上は口に出す事が出来なかった。

普段の自分のノリであれば、いくらスキンシップをしても、後輩をからかって遊んでいる風にしか見えないし。そうとしか見てもらえない。
例え壊れそうな程の感情を抱えていても、全部そこに隠してしまえる。

だけどこんな如何にもな時だけは、肝心な事は言えないまま。
意気地が無いな、でも幸せだな、と、彼女は複雑な胸中に揺れている。

キュッとケイの袖を掴む北上の手が、代わりにそんな彼女の気持ちを語っていた。
その真意が伝わっているのかは、定かでは無いが。

触れそうで触れない、ちぐはぐな距離感の中。
二人はしばし、目の前のイルミネーションに見惚れていた。




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