270: ◆FlW2v5zETA[saga]
2016/09/13(火) 07:52:04.41 ID:khV+Eq69O
「ケイくん聞いてないよ〜…私コンパクターとか初めて使ったわよ…。」
「はは…車と人貸してくれって話だったんだけどね……『北上さん』もこれ食います?向こうでお土産にクッキーもらったみたいですよ。」
「あ………う、うん!もらうねー!」
二人きりの時間を想像していた彼女にとって。
『北上さん』と呼ばれた際のズキリとした胸の痛みは、誤魔化しようが無かった。
オレンジペーストの入ったクッキーの酸味は、やけに酸っぱく思える。
相変わらずぐったりと項垂れる夕張を見て、北上は、最初より少し大きい音で二口目のクッキーを齧っていた。
“…空気読んで欲しいなー…いや、読んでるからここにいるのか……。”
ホワイトボードを見れば、それぞれ今日の予定表が書かれている。
本日の予定は、『夕張・AM9:00より○○鎮守府工事応援〜直帰予定』と記されていた。
この鎮守府で指す直帰とは、寮の方への帰宅だ。
恐らくは…と考えた所で、北上は何とも言えない気持ちに襲われた。
「二人とも、アタシ先ご飯行くねー。」
「お疲れ様ですー。」
「お疲れ様で〜す…私、もうちょっと休んだら戻ります……。」
いつからだろう。
こんな風に3人で軽く話して、そしてそのまま終わってしまう事が増えたのは。
心なしか、やはりケイを独り占め出来る機会は減ったように思う。
北上はそう考えつつ、とぼとぼと食堂から寮への道を歩いていた。
夕張の方は、恐らく北上が考えているような悪意はそこまで持っていないだろう。
しかしあの合宿を経て、予想外に仲良くなってしまったからこそ、彼女には理解出来ていた。
作為的で無くとも。
夕張の無意識の内には、そうはさせないと言う意識がある事ぐらいは。
何故ならケイの話をする時の夕張は。
自分がケイに対して向けるように、恋する女の顔をしているのだから。
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