過去ログ - 北上「離さない」
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272: ◆FlW2v5zETA[saga]
2016/09/13(火) 07:56:36.60 ID:khV+Eq69O

時刻2024。

工廠の外には、赤い灯と紫煙が漂っていた。

煙の主は、ケイ。
温冷庫に突っ込んでいた缶コーヒーもすっかりぬるくなり、手は少しかじかみを覚えている。
しかしそれを気にするでも無く、茫然とした様子で紫煙を夜風に吐き出していた。

何かを考え込むような、それでいて、彼には珍しく気怠げな。
そんな目をしたまま、彼はじっと、波音に耳を傾ける。


「まーた変な夢でも見たー?」


そんな彼に声を掛けたのは、北上だった。

彼女は勤めていつも通りの声色を装い、本当は走って上がっている息を、必死に抑えていた。
そしていつかのように彼の隣に座ると、何を語るでも無くじっとケイの顔を見る。

ケイはと言えば、返事もせず、ぼーっと少し離れた波止場を見つめるのみ。
その目に映るのは過去のトラウマか、或いは別の感情か。
タバコを灰皿に放り込むと、彼はようやく口を開いた。


「ただの考え事ですよー。ちょっと頭ん中で、設計仕切り直してたんで。」
「本数増えたんじゃない?」
「え?」
「ケイちゃん、最近3日に一度ぐらいタバコの匂いするもん。」


あちゃー、と言った具合に、ケイは苦笑していた。
よく気付くなぁ、と思いつつ、残りの缶コーヒーをぐっと飲み干す。

ぬるくなった缶コーヒーは、妙に冷たく感じられた。


「ケイちゃん、ちょっとあっち行こうよ!」


北上は敢えて何を考えていたかは訊かず、突堤の方へと彼の手を引いた。

コンクリートに座れば、そこには冬の海と星空。
月明かりが波を照らし、その反射は星のように煌めき。
それは夜空と海が境界を無くしたような、不思議な光景を二人の前に広げていた。


「さっむー…すっかり冬だねー。」
「ですね。そろそろ雪でも来るかなぁ。」
「ねね、ケイちゃんマフラー貸してよ。」


ケイの着けていたマフラーは、かなり長いものだ。
北上はそれを借りて自分の首に薄く巻き付け。


続いて余った方を、彼の首へと掛けた。




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