354: ◆FlW2v5zETA[saga]
2016/10/06(木) 05:08:56.58 ID:FtLTPb5v0
“……まだ、二人きりなんだよねー…。
ああ、痛いなぁ……痛い…痛い…痛い……!”
その姿を想像するだけで、肩の傷がズキズキと疼きを上げる。
しかし彼女は、釣り上がる頬を抑えきれずにいた。
北上と夕張は、気が合う。
例えば音楽の趣味やゲームの趣味、或いは好みの甘い物。
そして、同じ人を深く愛した、その事実。
故に、何が最もダメージを与えるのか。
それを彼女は、よく知っている。
入り口に血走った視線を合わせる。
馴染みのモッズコートと、緑がかった銀髪と。
それを目にし、彼女の中には喜びと不快感が激しく入り乱れる。
近付くな、離れろ、そこはあんたの場所じゃない。
まぁいい、それももうすぐ終わる。
ここまで近づけば、後は飛び出すだけ。
いつもの北上様で、駆け寄るだけなんだ。
この時北上は、その実正常な判断力を失っていた。
狂気に自らを浸し。彼女は、奪われまいと焦っている自分から目を背けていた。
歪みきった心の形は、様々な事を彼女に対して覆い隠していた。
例えばそれが、とある方向に変質する可能性。
それにすら、目を背けて。
その距離、残り5メートル。
北上は息を殺しながら、じっと獲物を待つ。
さぁ、来い、来い、来い!
来た!
そして彼女の目に飛び込んだものは。
“…………え?”
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