過去ログ - 二宮飛鳥「灰色の世界の外」 -SS速報VIP

過去ログ - 二宮飛鳥「灰色の世界の外」

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10: ◆6Iawv9Kkjc[sage saga]
2016/07/18(月) 18:08:41.88 ID:zqYuzPVg0
ヒトは他人から見た自分を見ることはできないと聞いたことがある。

精神的な意味ではもちろん、物理的に自らが自らを見ることもできない。

鏡を使ったとしても、そこに映る像は左右が逆転している。

11: ◆6Iawv9Kkjc[sage saga]
2016/07/18(月) 18:10:10.82 ID:zqYuzPVg0
さて、そうこう思考を揺蕩わせるうちに十数分の道を歩き終わっていたようだ。

景色は少しづつ変わりゆくとはいえ、すでに慣れた道。

せめて未知なる道ならば、少しでも楽しみを見いだせただろうか。

12: ◆6Iawv9Kkjc[sage saga]
2016/07/18(月) 18:14:56.93 ID:zqYuzPVg0
◆◆

時は来た。

13: ◆6Iawv9Kkjc[sage saga]
2016/07/18(月) 18:16:12.34 ID:zqYuzPVg0
いつもは騒がしい学び舎も、夜には雰囲気をがらりと変える。

天文学部が帰っていったのを見計らい、ボクはプールサイドへと向かう。

今となっては慣れたものだが、初めからこうだったわけではない。

14: ◆6Iawv9Kkjc[sage saga]
2016/07/18(月) 18:18:23.78 ID:zqYuzPVg0
しかし、用務員の反応はボクの想像を超えていた。

彼はひとしきり笑った後、

「まさか、同じことをする子がまた現れるか」と言ったのだ。

15: ◆6Iawv9Kkjc[sage saga]
2016/07/18(月) 18:20:26.64 ID:zqYuzPVg0
いずれは、その"痛いヤツ"の先駆者に会う時も来るのかもしれない。

彼は、この灰色の世界に"色"を見つけることができたのだろうか。

そして、もし巡り合えたならば、礼を言うべきだろうか。

16: ◆6Iawv9Kkjc[sage saga]
2016/07/18(月) 18:25:08.60 ID:zqYuzPVg0
『やあ、よく来たね。待っていたよ』

そうだ。この時間の、この周波数のプログラムはレディオ・ドラマ。

……にしても、先週の引きからはいささか急すぎる展開だ。

17: ◆6Iawv9Kkjc[sage saga]
2016/07/18(月) 18:27:15.59 ID:zqYuzPVg0
ああ、プログラムが変更されているのだろうか。

少しだけ楽しみにしていたのに、と思いつつもほかのプログラムに周波数を合わせる。

「あくまで気付かないふりをするつもりかい？　二宮飛鳥、君になら届くと思っていたんだがね」

18: ◆6Iawv9Kkjc[sage saga]
2016/07/18(月) 18:29:04.18 ID:zqYuzPVg0
声のする方――右後ろのプールのフェンスの方――を向く。

そこに在ったのは、フェンスの上に腰掛ける、

スーツ姿でいながら"痛さ"の隠しきれていない男の姿だった。

19: ◆6Iawv9Kkjc[sage saga]
2016/07/18(月) 18:30:21.53 ID:zqYuzPVg0
「悪い魔法使い？　そんなアクターは『シンデレラ』には登場しないはずだけど」

うろ覚えだけど、確かそうだったはずだ。

魔法使いはいても、悪役としては描かれていない。

20: ◆6Iawv9Kkjc[sage saga]
2016/07/18(月) 18:31:52.70 ID:zqYuzPVg0
そうヤツは語る。道へ引き込む者の責任を。

人の往く先を歪めるという事の重大さを。

でも――

21: ◆6Iawv9Kkjc[sage saga]
2016/07/18(月) 18:34:01.67 ID:zqYuzPVg0
「アイドル……というと、あのアイドルかい？」

華やかな衣服を身に纏い、煌びやかな舞台に立ち、歌や踊り等で人々を扇動する者。

扇動者より離れた場所で、流れに流されまいとしているこのボクが、アイドルに。

22: ◆6Iawv9Kkjc[sage saga]
2016/07/18(月) 18:36:00.32 ID:zqYuzPVg0
「そうだ。舞や歌声で人々を魅了する、アレだ。そして君には、他人には無い武器がある」

「それは、その"痛さ"だ。その強烈な個性は、この世界を勝ち抜く大きな力、武器となる」

ボクが思考を挟む間を与えぬようにヤツは呪文を紡ぐ。

23: ◆6Iawv9Kkjc[sage saga]
2016/07/18(月) 18:37:02.34 ID:zqYuzPVg0
そんな、歯の浮くような科白の後、彼はこう契約を持ち掛けた。

「再び問おう。二宮飛鳥。君は偶像になる気はないか？

24: ◆6Iawv9Kkjc[sage saga]
2016/07/18(月) 18:44:19.95 ID:zqYuzPVg0
突然現れたこの世界の外への扉を前に、ボクは押し黙ってしまった。

そんなボクの状況を認めたからか、

25: ◆6Iawv9Kkjc[sage saga]
2016/07/18(月) 18:47:17.40 ID:zqYuzPVg0
「……キミの言いたいことは理解ったさ。それでもいい。ボクに世界の外を見せてくれ」

「え、いや、もう少し考えてからのほうが――」

「これ以上考える必要は無いよ。世界の流れに流されてしまう前に、選んでおきたいんだ」

26: ◆6Iawv9Kkjc[sage saga]
2016/07/18(月) 18:50:08.91 ID:zqYuzPVg0
そうだ。

本当に、ボクは変わらないでいることを強いられたくらいで、変わらないでいるだろうか。

自身のレゾン・デートルすら曖昧なボク。

27: ◆6Iawv9Kkjc[saga]
2016/07/18(月) 18:54:03.17 ID:zqYuzPVg0
「はは、そこまで言われてしまえば、オレがどうこう言うことももうあるまい。

　魔法をかけるつもりがまさか、シンデレラに魔法をかけなおされてしまうとはね」

ボクの言葉を、いや、彼に言わせれば魔法にかかった彼は、ニヤリとしながらそんなことを言った。

28: ◆6Iawv9Kkjc[sage saga]
2016/07/18(月) 18:57:25.08 ID:zqYuzPVg0
以上で終了となります。

29:名無しNIPPER[sage]
2016/07/18(月) 19:04:05.29 ID:dD8l4DD6o
乙

30:名無しNIPPER[sage]
2016/07/18(月) 22:00:17.42 ID:V5braIcCo
乙
痛さ成分濃いめの良い飛鳥

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