92: ◆U7CecbhO/.[saga]
2016/08/13(土) 09:05:10.65 ID:djqbcaKg0
駅の喫煙所で紫煙を燻らせる。
頭が重い。ニコチンのせいか、進まないステージ演出の企画書のせいかわからなかった。
「まずいよね、これは」
とにかく時間がない。元々提出したのが遅かったのだ。だから千川さんからの駄目だしも遅くれたのだろう。
それに今日は動画の会議に、会議を受けて速水さんとの打ち合わせも行った。企画書を作成する時間がなかった。
動画はライブDVDの特典にもなるらしく、思っていたよりも本格的な撮影になるそうだ。おかげで会議は長引いた。
本当なら撮影に同行したいところだが、このままだと厳しいだろう。
まずい、焦る。
なにより、具体案を思いつけない現状に焦燥感がつきまとう。
煙草を灰皿に押しつけ捨てる。
きっかけが欲しかった。想像力を刺激するような、そんなきっかけ。
「見つけに行く時間もないよなぁ」
ガラスで隔たれた喫煙所から出る。と、速水さんと鉢合わせる。
「あら……帰り道でも会うなんて、ちょっと運命感じちゃうかな。ふふっ」
手には紙袋。買い物をしていたようだ。
「おー、帰ったんじゃなかったんだ」
「フレちゃんとお買い物にね。プロデューサーさんは今あがり?」
「うん、粘っても駄目そうだったからね」
「そうなんだ。ねぇ、時間あるかしら。よかったらお茶でもしていかない?」
「なに、デート?」
「ええ、たまには息抜きも必要でしょ」
速水さんは悪戯っぽく微笑む。この笑みを前にして断れる男はいないだろう。
「……いいよ」
プライベートなお誘いは初めてだ。だけど、デートと洒落込める気分ではなかった。
◇
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