過去ログ - 【モバマス】私「クラスメイト、一ノ瀬志希の話」
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26: ◆TZIp3n.8lc[saga]
2016/08/08(月) 21:05:07.60 ID:mFvc4esTo
 二週間ほど前から体育の授業ではバスケをやっていたが、志希はちょうど忙しくなったみたいで一度も体育に出ていなかった。
 運動の苦手な志希らしく、シュートやドリブルどころか、ろくにパスも出せない。聞いてみるとバスケは一度もやったことがないらしい。そのため、私はバスケのルールを説明してやる必要があった。

「頑張ろうねー」

以下略



27: ◆TZIp3n.8lc[saga]
2016/08/08(月) 21:05:42.42 ID:mFvc4esTo

 最初の試合前に、そのバスケ部員の近藤さんが言った。

「一ノ瀬さんはボールを持ったらすぐ他の人にパスすればいいから」

以下略



28: ◆TZIp3n.8lc[saga]
2016/08/08(月) 21:06:13.11 ID:mFvc4esTo

 最初の試合、志希にはほとんどボールが渡らなかった。なんだか一人だけ蚊帳の外にしているみたいで可哀想だった。一度、試合の流れに紛れて志希にパスを出したけど、彼女はパスを受け取り損ねて、ころころ転がるボールをコートの外まで追いかけていった。
 彼女の背中で揺れる一束の黒髪を見てると、勝手なことながらも可愛らしいと思ってしまった。
 次の試合までの時間はずっとパスの練習をしていた。意外と志希は飲み込みが早く、最初は明後日の方向に飛ばしていたパスも三十分もする内に綺麗に出せるようになっていた。意外と、というとおかしな話かもしれない。志希はギフテッドと呼ばれる天才なのだから。
 次の試合で志希からパスを貰ってシュートを決めたときは、思わずガッツポーズをしてしまった。


29: ◆TZIp3n.8lc[saga]
2016/08/08(月) 21:06:56.57 ID:mFvc4esTo

 私たちのチームは危なげなく勝ち上がっていった。志希が足を引っ張ると思われていたのだけど、人並みとはいかないまでも頑張っているので、思ったよりもチームの実力が高かった。
 試合の合間、志希は今度はドリブルの練習をしていた。私もバスケ部というわけではないので、特別なアドバイスができるわけじゃない。最初は足に引っ掛けて転がっていくボールを、追いかけていく志希の姿を見て楽しんだ。でも、それは最初だけで、ちょっと練習しただけで人並みにドリブルができるようになった。やっぱり志希は天才なんだ。
 そうやって私を感心させた志希だったけど、次の試合でもボールを持ったらすぐ味方にパスするだけだった。ちょっとくらいドリブルしてもいいのに。


30: ◆TZIp3n.8lc[saga]
2016/08/08(月) 21:07:25.48 ID:mFvc4esTo

 その次はシュートの練習だ。パスの要領でやるからか、最初からある程度はボールがまっすぐに飛んだ。シュートのアドバイスは近藤さんに貰った。簡単に話を聞いただけで、シュートの成功率がぐんと上がった志希を見て、近藤さんも驚いていた。私はすこしだけ誇らしい気持ちになった。

「どうしてここから三点入るのに、わざわざ相手を突破して二点のシュートを狙うの?」

以下略



31: ◆TZIp3n.8lc[saga]
2016/08/08(月) 21:08:07.06 ID:mFvc4esTo

 試合が進み決勝戦になった。相手はバスケ部のキャプテンの弘美が率いる三組のチームだ。
「あの子と何かあったの?」
 整列が終わって試合の準備をしていると志希が訊ねてきた。

以下略



32: ◆TZIp3n.8lc[saga]
2016/08/08(月) 21:08:35.71 ID:mFvc4esTo

 前半戦が終わると、私たちは意気消沈していた。鈴木さんなんて目に涙を浮かべている。これまでの試合、私たちは前半戦で必ずリードを作ってきた。運動の苦手な志希に交代しても勝てるように、という意気込みだった。
 それほど点差はついていないものの、前半戦では手も足も出なかった。志希が練習して多少上手くなったと知っている私でも、覆せるようには思えなかった。

「ねーねー、みんなちょっといい?」
以下略



33: ◆TZIp3n.8lc[saga]
2016/08/08(月) 21:09:16.63 ID:mFvc4esTo

 しゅ、しゅ、と甘い香りが私たちの鼻先に漂う。ささくれだった心がほぐれていくようだった。

「いい匂い」
「でしょー? リラックスできる成分を多めにしてあるんだ」
以下略



34: ◆TZIp3n.8lc[saga]
2016/08/08(月) 21:09:45.42 ID:mFvc4esTo
 慌ただしく志希が香水を鞄に隠しに行って、戻ってきたらもう試合開始の時間だった。なんの解決策も見つからなかったけど、私たちの間に漂っていた負けムードは志希の香水で上書きされてしまったようだった。
 だからといって簡単に勝てるものではない。相変わらず、私のマークはきついし、近藤さんは弘美に張り付かれている。前半と同じような流れがまた出来上がってしまっていた。
 だけど、徐々に点差が縮まっていく。それは三組の交代した選手のせいもあった。明らかに動きが悪い。おそらく、弘美は志希が後半に出ることをわかっていて、前半に上手い人間を入れていたのだろう。
 そして、もう一つ前半と違うのは志希の存在だった。鈴木さんはパスを貰ってもそれを上手くつなげることができなかったけど、志希は言われた通りに即座にパスを返すので相手もなかなか奪うことができない。そのパスも志希の観察眼のおかげか、得点に繋がることも少なくなかった。


35: ◆TZIp3n.8lc[saga]
2016/08/08(月) 21:10:18.99 ID:mFvc4esTo
 試合終盤になると相手の動きが悪くなっていた。このまま続けていても勝てるかどうかわからなくなったのだろう。前半の私たちがそうだったから、よくわかる。何か変えないといけないと思っていても解決策は思いつかない。点差はこちらが負けているのに、精神的には優位に立っている気がした。
 弘美がシュートを外すと、近藤さんがリバウンドを取った。点差は二点差まで追いついていたが、もう時間に余裕はなかった。コートの中央にいた私にパスが飛んでくる。
 同点にできれば、最後はフリースローで勝負を決めることになっている。まだ負けたくない。
 だけどドリブルで数歩進めただけで、相手のディフェンスに阻まれる。ボールを叩きながら、二人と睨み合う。ちょっと運動神経がいい程度の私じゃ突破できない。
 視界の端にボリュームのあるふわりとした長髪が映る。私は咄嗟にボールを彼女に投げた。


36: ◆TZIp3n.8lc[saga]
2016/08/08(月) 21:10:46.95 ID:mFvc4esTo

 勢いのついていたボールを綺麗に受け止めると志希はドリブルを始める。今日のはじめの頃と違い、その姿はさまになっていた。おぼつかないドリブルなんかじゃない。バスケ部に所属するヒロインそのものだ。
 そんな彼女の前に弘美が立ちふさがる。弘美の口元には笑みが浮かんでいる。彼女は私が志希にパスを出すように仕向けていたのだ。志希がちらりと視線をスコアボードにやる。私もそれにつられて、スコアボードの残り時間を見る。もう時間は残されていない。
 これが最後のプレーになるだろう。その瞬間に、一番奪いやすい人間にボールがいくようにしたのだ。奪えなかったとしても時間を使い潰せる勝算が最も高い相手を選んだのだ。


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