1:名無しNIPPER
2016/08/10(水) 20:11:57.84 ID:/7spWSuao
彼女は青いキャリーバックに腰を預け、女子寮を見上げていた。
まだ建てられてさほど時間の経っていない女子寮はほとんど歴史を持っていない。
しかし彼女にとってそこは四年間を過した場所なのだ。多少なりとも思い入れというのがあるのだろう。
一時期は数十人のアイドルが住んでいたここも立ち退きが進み、僅かに残っている人も既に引越し先が
決まっている。もうじきここは誰もいなくなるのだ。
「雪美、待たせたな」
声をかけると、彼女は振り向き、立ち上がった。
腰元まで伸びている黒い髪と膝まであるスカートとはスカウトした時からあまり変わらない。
ただフリルやリボンの付いた可愛らしい服よりかは何も着いていないこざっぱりとした服を着るようには
なった。
「大丈夫……」
「忘れ物はないか?」
「うん……」
「よし、じゃあ駐車場に」
「ねぇ……P……」
今度は俺が振り向く。彼女は駐車場ではなく、プロダクションの正門の方角を指した。
「歩いて……行こ……」
「時間はまだ余裕あるか」
「うん……」
「そうだな。なら、歩くか」
俺は歩みかけていた足を正門に向ける。それにキャスターのガラガラ鳴る音が続いた。
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2:名無しNIPPER[sage]
2016/08/10(水) 20:12:23.31 ID:/7spWSuao
学生達の夏休みが始まり、少し経つ。あと幾日もすれば八月だ。夏の熱い日差しがコンクリートを
焼きつけ、少し先では陽炎が揺らめいている。天気は快晴。空には雲ひとつなく、今日も真夏日に
なるだろう。かつての俺ならばこんな日でもスーツであったが、今はワイシャツでネクタイもせずに
歩いている。
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