2:名無しNIPPER[sage]
2016/08/10(水) 20:12:23.31 ID:/7spWSuao
 学生達の夏休みが始まり、少し経つ。あと幾日もすれば八月だ。夏の熱い日差しがコンクリートを 
 焼きつけ、少し先では陽炎が揺らめいている。天気は快晴。空には雲ひとつなく、今日も真夏日に 
 なるだろう。かつての俺ならばこんな日でもスーツであったが、今はワイシャツでネクタイもせずに 
 歩いている。 
  
 隣を歩く雪美を見る。彼女は昔から暑いのが苦手だ。コンクリートで照り返しの多い都会では余計に 
 暑く感じる。バッグを引く彼女の頬を汗が流れる。日陰も少なく、日傘など当然持ち合わせていない。 
 せめてバッグを代わりに持とうかと考えていると、彼女がこちらの視線に気付き、小さく微笑む。 
  
 「大丈夫……。このぐらいなら……」 
 「そうか? せめてバッグくらい持とうか?」 
 「平気……」 
  
 駅までは彼女の足でも歩いて十五分ほどだ。大した距離があるわけでもないし、彼女自身この道を今まで 
 何度も歩いてきた。問題はないのだが、こうやって真夏に一緒に歩くということはなかったので 
 やはり気になってしまう。せめて帽子でもあればと思ったが、ないものはやはりない。もしも次があれば 
 帽子か日傘を用意するところだが、おそらくそれもないことだ。 
  
 「看板……」 
  
 彼女が立ち止まり、少し見上げる。前まではアイドルの写った化粧品会社の看板があったが、今は商品 
 だけが写っている。いつ差し替えられたのかはわからない。 
  
 「ああ、あそこも変わっちゃったな」 
 「みんな……変わっちゃうの……?」 
 「そうだな……。全部でなくてもほとんどのが変わるだろうな」 
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