過去ログ - 京太郎「鼓動する星 ヤタガラスのための狂詩曲」
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29: ◆hSU3iHKACOC4[sage saga]
2016/08/14(日) 03:51:29.18 ID:B82FWzEK0

ただの暇つぶしのお遊びのはずだが、大金をかけた勝負の真剣さだった。それもそのはず、二人とも自分は勝てると思っていた。

少なくとも染谷まこには勝てると思っていたのだ。何せ染谷まこは一般人である。裏の世界にあり、それなりに難しい事件をくぐってきた自分たちである。

一般人なんぞに負けるわけがないと思っていた。しかし実際に勝ちぬけたのは染谷まこ。余裕ぶっていた二人はびり決定戦。笑えなかった。

結果、勝利したのがアンヘルだった。三味線合戦を何とか演技で潜り抜けたのだった。勝利をもぎ取ったアンヘルは大きくガッツポーズを決めていた。

嬉しかったからだろう勢いを間違えて肘を座席にぶつけて転がり落ちていた。一方で天江衣はひどい唸り声をあげて、悔しがった。

ほとんど叫んでいた。染谷まこはしかめっ面になった。うるさかった。加えて、大金を失った博徒のようだった。

二人の様子を見ていた染谷まこは遠くを見ながらこう思った。

「京太郎は苦労しているのだろうな」と。

 ルール無用仁義無用のババ抜き二回戦が始まって十分後、天江衣が染谷まこに話しかけていた、その話を書いていく。

始まりは一回戦目が終わってすぐのことである。場が熱くなっていた。

敗北した天江衣の目が博徒のそれになり、アンヘルの顔から微笑が完全に消えた。

ギリギリのところで勝利したソックも敗北の気配を感じて真剣さを増している。染谷まこは特に気負ったところがない。

しかし四人中三名が本気になっているので、クーラーがきいているはずなのに熱かった。そんな状況になって、天江衣とアンヘルが

「もう一度ババ抜きをしませんか?」

と染谷まことソックを二回戦目に誘った。天江衣とアンヘルの考えるところは単純である。勝利することだ。

敗北を味わった者たちだからこそ、勝利の味を欲しがった。ただ、あまりにぎらついているので染谷まことソックにはすぐに見抜かれた。

ただ、何の問題もなく二回戦目が始まった。賭けているモノがプライドだけだからだ。しかし結果から言えば、勝利したのは染谷まこ。

二番目が天江衣である。三味線上等、ちょっとした心理学のテクニックも織り込んで楽しくゲームをプレイしての結果であった。

そうして二回戦目の決着がつくと、染谷まこの隣に座っていた天江衣が話しかけてきた。

「いやぁ、染谷はババ抜き強いな。なにかコツでもあるのか?」

完全に声が震えていた。平静を装っていたが、顔が少し赤い。それもそのはず、異能力を少しだけ発動させても勝利できなかったのだ。

ものすごく悔しかった。そんな天江衣に染谷まこがこう言った。

「ないぞ? こういうのは運じゃろうな。そんなもんじゃろ?」

勝利に勝ったうえに冷静そのもの。熱くなっている三人を上から見下ろす視線は常識的な高校生の目だった。

そんな染谷まこを見て天江衣のこめかみが引きつった。天江衣の持つ異能力が運なんぞで拒絶されるわけがなかったからだ。

 天江衣と染谷まこが話をしている間にババ抜きの二回戦目が終了した、この時の彼女らの様子について書いていく。

それは染谷まこの挑発が天江衣に直撃した後のことである。二回戦目の決着がついた。最下位になったのはアンヘルだった。

ソックとの激しい心理戦を経て、結局敗北していた。最後の最後で、ビックリするくらい焦ってしくじっていた。

そうして負けた時、犬のような唸り声をあげてアンヘルは座席から転がり落ちていった。転がり落ちていったアンヘルは堕ちた姿勢のままで動かない。

しかし怪我はしていない。連敗で心がズタズタになっていた。そして次こそ勝利するために、転がり落ちた姿勢のまま呪文を唱え始めた。

「『飢えに苦しむ私を満たす、現世の皿が空になる。今ぞ審判の時。来たれ光の神、汝の影が動き出す』」

一方、ぎりぎりのところで勝利したソックは両手で顔を隠して、椅子に縮こまって

「うん! うん!

と言っていた。次の戦いを有利に進めるため自分を抑え込んでいたが、勝利の喜びで心はいっぱいである。


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