過去ログ - 男「ここにいたんだ」
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301:名無しNIPPER[saga]
2016/08/28(日) 23:34:35.05 ID:ilA7zgD60
 玄関から物音。

 振り返ると同時に、イチの声が聴こえた。

「スマホ忘れちゃってて」

 なんてもんを忘れるんだ。

 リビングのクッションをめくると、たしかにイチのスマホが転がっていた。

「はい」

「ありがと」

 することもなかったので、そこまで送ろう、と二人で家を出た。

 夕陽がアスファルトを照らしている。目に入る全ての影が、長く引き伸ばされていた。

 肩を並べて歩く。

 昼間とは温度がかなり下がっている気がして、別の世界を歩いているようだった。
 歩いていて気持ちいい気温。

「昼間もこれくらいならいいのにね」

「ほんとに」

 イチの声を聞いて、なんとなく落ち着くような、落ち着かないような気分になる。

 なんというか、安心してるんだけど、してないというか、その。

 なんだろう。これ。

 橋の上を渡ると、相変わらず、川面は夕陽を煩いほど反射していた。ここの景色は好きだ。

「公園、寄ってかない?」

 口に出してから、少し驚く。

「うん、いいよ」

 まあ、口に出してしまったものは仕方ない。
 それに、イチといるのは嫌いじゃない。



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