過去ログ - 男「ここにいたんだ」
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306:名無しNIPPER[saga]
2016/08/28(日) 23:41:54.85 ID:ilA7zgD60
 イチが、

 深呼吸をしたのを、見て、

 ーーあぁ、逃げられるかな、と思って、

 イチが顔を上げて、

 ーーあぁ、不快にさせたかな、と思って、

 何言ってんだ俺、何やってんだよ俺、いやお前から壊してどうすんだよ。

 そうじゃない。これがあいつの言う、最善手なんだよ。

 なんだよあいつって。それは俺じゃなくて、他の奴が言ったことだろ。

 違う。おれが決めた。おれが言った。
 変えないためにこうしたんだよ。

 ーー思いっきり自信をなくして、

 やべえ、と顔を顰めそうになっていたから、

「……うん」

 そのとき、イチが頷いた意味が、一瞬理解できなかった。

「……え?」

 と、尋ね返してしまってから、

 「うん」という言葉には、否定の意味はないと理解して、
 それはそれで驚いて、

「……や、やっぱり、今の返事は、はい、の方がよかった、かな?」

 そう言って焦ったように、赤く染まった頬を手で隠そうとするイチが、もう、可愛くて可愛くて仕方がなかった。

 あぁ、よかったんだ。

 そう考えると、途端に体の力が抜けて、心臓が激しい運動を緩めた。
 肋骨あたりが筋肉痛のように痛い。

 まだ「あー……もう、えっと……その」と、あたふたしているイチが可笑しくて可愛くて、思わず笑ってしまう。
 
「なんで笑う!」

「いや、可愛くて」

 そう言ってしまって、自分でも恥ずかしくなって、
 イチも恥ずかしそうに顔を俯かせた。



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