過去ログ - 男「ここにいたんだ」
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42:名無しNIPPER[saga]
2016/08/18(木) 08:32:39.90 ID:RhqsoqHZ0

「ねえ、ちゅーしよう」

 いつもの席で、いつもの席に座っているイチが、俺の方を見ながらそう言う。

 部室。夕方。
 夕日は信じられないくらいオレンジ色をしていて、部室はまるで絵画のようにオレンジ一色に染められていた。

 窓の外には鳶が飛んでいる。

「何を言ってるのでありますか」

 照れているのか、俺は、いつもとは口調が違った。心なしか声が少し上ずっている。

「だって、そういう気分なんだもん」

 イチが後ろ向きに椅子に座っているせいで、一つ後ろに座っている俺との顔の距離はだいぶ近い。
 風が吹くと、イチの髪がふわりと揺れて、シャンプーのいい香りがした。胸がドクンと脈打つ。

「えっと……」

 突然キスを迫られても、さくらんぼ系男子である俺には、どう対処するのが正解なのかわからない。
 中庭に目をやると、窓は閉まっていた。

「私じゃダメ?」

 ほんの少しだけ上目遣いのイチの瞳は、心なしか少し涙で潤んでいた。
 その涙も、オレンジ色に染まっている。

「そんなことは、ない……と、思う」

 目をそらして、挙動不審になりながらそう答えるのが精一杯だった。

「それでも男の子ですか」

 いつの間にいたのか、ナナコがため息をついている。……ため息をつくと幸せが逃げる、という。
 右を向くと、よくわからない距離にナナコは立っていた。近くもないし、遠くもない。
 部室は不思議な空間になっていた。

「そう……だよ?」

 部長の隣に立つチヨも、ナナコに加勢するようにそう言う。

「でも、あの子はどうすんのさ」

 教卓の前に立つ部長は、チヨの髪をいじりながら訊ねてくる。
 チヨはくすぐったそうな顔をしているが、嫌がる様子はない。

「あの子って……?」



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