過去ログ - モバP「誰かの夏と終わり」
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2:名無しNIPPER[saga]
2016/08/21(日) 23:13:08.05 ID:IIJt6e4C0
 ――ハイ片付けー!!

 ほとんど放心状態になっていたオレの耳に届いた、終了の合図。

 グラウンドにぼたぼたと落ちる汗を腕でぬぐい、顔を上げると、陽射しがもろに目に入ってくる。

 最低気温からして30度近いこの時期、「朝の涼しい時間帯にがんばろう」なんていうのはヤケクソのうそっぱちだ。 

 テレビでは、外での活動は控えるようになんて言っているのにな。

 ともかく一瞬でもはやく水をがぶ飲みしたいんだけど、かといってさっさと片付けに入れるほどの体力も残ってない。

 というわけで、オレ含めてたいていの部員はゾンビみたいにのろのろと移動し、そのくせラダーやパイロンみたいな片付けの楽な器具に取り付くのに必死になる。
 
 そんな中、ひょいひょいとハードルをまとめて担いで倉庫に一番乗りし、もうトンボ持って戻ってきてるやつがいた。

 足元から砂煙を立たせ、ピンと伸びた背筋は疲れなんか感じさせず、鼻歌まで歌ってるそいつは、俺を見るなりにっこり笑って、

「ほらほらー、あと少しだから、がんばろっ?」

 一ミリの嫌気もなく言い切った。

 オレの5センチ上から。

「ちっ……うっせーっつの」

 そう吐き捨てると、男子からはひゅーひゅー声が飛んで、女子からは、うわあいつサイアクなんて評価が聞こえよがしに下った。

 そういつはというと困ったみたいに笑って、トンボ掛けに向かった。もちろん駆け足だ。

 あーもう、サイアクだ。

 乙倉が悪い。

  
 いつからか、デカ女、という悪口は言わなくなった。あまりにもみじめだからだ。
 
 その代わり、とても口には出せない敗北感は、毎回態度になって表れていた。

 ことあるごとにオレは乙倉に勝負を吹っかけた。

 勉強は――まあどっこいどっこいだった。

 それ以外では完全にオレの負け。

 身長はアイツのほうが高い。女子の中ではダントツだし、男子と比べても負けてるやつはいっぱいいた。

 顔は――ぜったい本人には言わないけど――可愛い。オレなんてフツーもいいとこだし、告白もされたことないから、これも乙倉の勝ちだろう。

 乙倉は何回も告白されてるみたいだと、ウワサで聞いた。同学年も上級生からも、それどころか高校生からも、だって。

 でも、全部断ってるっていうのもおんなじウワサで聞いた……ホッとしたのは、内緒だ。

 そんで、小学校の頃から自慢にしてきた陸上でも――オレは乙倉に勝てていない。

 もちろん、男女で大会自体は別だから、レギュラー争いとかそういうのではない。

 競技もほとんど違うから、部活でどうとわけでもない。

 純粋に、乙倉はオレよりかけっこが速い。

 いつもオレは、乙倉の背中を見るはめになっていた。

 単純にそこが問題で、だからこそ悔しかった。

 部活じゃ関係ないしねっ、なんてフォローされるのがなによりしゃくだった。

 乙倉は特別なんだと思いたくなかった。

 負けたくなかった。



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