過去ログ - 千川ちひろ「紫煙の奥から」
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24: ◆K5gei8GTyk[sage saga]
2016/08/22(月) 21:56:05.91 ID:Bte9AddR0
 誰かに幸せを与えられる存在に、誰かの心の片隅にひっそりと佇んでいられる存在になりたかった。


 自惚れることが許されるなら、過去のある瞬間では、なれていたように思う。


25: ◆K5gei8GTyk[sage saga]
2016/08/22(月) 21:59:37.03 ID:Bte9AddR0
 あれから何日も経つのに、未だにプロデューサーにライターを返すことができないでいる。

 返さないつもりではないし、むしろ早いうちに返さなければとも思うのだけど、どうしてだかそれは躊躇われた。

 気のせいかもしれないけどそれには、未練のような、浅はかな感情が邪魔しているような感覚がある。
以下略



26: ◆K5gei8GTyk[sage saga]
2016/08/22(月) 22:02:06.85 ID:Bte9AddR0
 休日や、会社を早く上がれた日の夜にジョギングを再開した。

 走るのに適した服装に身を包み、幾ばくかの小銭だけを懐にしまい込み、無心で走る。

 大抵はランニングコースを何周か。数キロの道のりを、たっぷり時間をかけて。
以下略



27: ◆K5gei8GTyk[sage saga]
2016/08/22(月) 22:04:24.18 ID:Bte9AddR0
 時折、アイドルをしていた頃の夢を見ることがある。

 舞台に立つその瞬間の緊張や、精一杯覚えたダンスと歌を届けられる喜びを、わたしは追体験する。

 ファンの声援がわたしの鼓膜に張り付く。ステージから眺める彼らが網膜に焼き付く。
以下略



28: ◆K5gei8GTyk[sage saga]
2016/08/22(月) 22:07:05.73 ID:Bte9AddR0
 彼にライターを返すことについては、あっさり解決した。

 ある日の退勤後に人気のしない喫煙室に向かったら、既に彼が中にいたのだ。

 「プロデューサーさん」
以下略



29: ◆K5gei8GTyk[sage saga]
2016/08/22(月) 22:10:18.96 ID:Bte9AddR0
 二秒ほど固まって、何事かを考える素振りを見せてから彼は思い出したようで、緩やかに破顔した。

 「ああ、わざわざありがとうございます」

 「いえいえ、こちらこそ、すぐに返せなくてごめんなさい」
以下略



30: ◆K5gei8GTyk[sage saga]
2016/08/22(月) 22:12:12.66 ID:Bte9AddR0
 それから彼と、色々な話をした。

 これからのイベントの話、やろうとしている企画の話、最近のアイドル達の様子。


以下略



31: ◆K5gei8GTyk[sage saga]
2016/08/22(月) 22:13:11.02 ID:Bte9AddR0

 「ちひろさんは本当に、アイドルが好きなんですね」

 紫煙の奥から、そんな声が聞こえる。



32: ◆K5gei8GTyk[sage saga]
2016/08/22(月) 22:15:41.62 ID:Bte9AddR0
 すとん、と腑に落ちる感覚があった。

 それからわたしは、アイドルが好きなんだなあ、と改めて思った。

 今こうしてこの仕事に就いているのがその証左で。
以下略



33: ◆K5gei8GTyk[sage saga]
2016/08/22(月) 22:17:11.21 ID:Bte9AddR0
 アンビエントミュージックは今日も粛々と流れ続ける。



34: ◆K5gei8GTyk[sage saga]
2016/08/22(月) 22:19:23.76 ID:Bte9AddR0
 「もうすこしですね、志希ちゃんのライブ」

 「ですね」

 「首尾は上々ですか?」
以下略



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