過去ログ - 佐久間まゆ「あなたを待ちわびて」
↓ 1- 覧 板 20
2016/09/06(火) 22:17:33.01 ID:RE0Y+nXd0
 「それにしても、ずいぶんと余裕のあるスケジュールなんですね。ロケ、一日で終わりません?」 
  
 わたしは予定表を指さす。 
 ロケ地は3か所。どれも仙台駅からそう離れていない距離で、準備や移動の時間を差し引いても二日三日かかるロケとは思えなかった。 
  
7: ◆dCFehqwTmo[saga]
2016/09/06(火) 22:21:02.11 ID:RE0Y+nXd0
 「……あ、ああ、違う!違う!べつにそういう意味じゃ……!!」 
  
 あなたは何か察したのか、そう言いながら両手を振るう。 
 『そういう意味』? 
  
8: ◆dCFehqwTmo[saga]
2016/09/06(火) 22:23:16.42 ID:RE0Y+nXd0
 あるお仕事を思い出す。 
 それは、ついこの間。初夏の頃のこと。 
 ある雑誌で企画されているブライダル特集の撮影で、わたしはウエディングドレスを着ることになって。 
 撮影の休憩中、あなたを、教会に呼び出したときのこと。 
  
9: ◆dCFehqwTmo[saga]
2016/09/06(火) 22:26:29.88 ID:RE0Y+nXd0
 「……きみは」 
  
 あなたの言葉を遮るように、わたしは右手の手のひらをあなたに差し出し、頭を振る。 
 左手には紅いバラのブーケ。 
 開け放たれた扉から入り込む潮風が、わずかに散っていた花びらを巻き上げる。 
10: ◆dCFehqwTmo[saga]
2016/09/06(火) 22:27:05.16 ID:RE0Y+nXd0
  
  
 ――あなたはプロデューサーで、佐久間まゆはアイドルだから…わたしとあなたは決して結ばれないって…知ってるから…。 
  
  
11: ◆dCFehqwTmo[saga]
2016/09/06(火) 22:27:33.20 ID:RE0Y+nXd0
  
  
 --- 
 -- 
 - 
12: ◆dCFehqwTmo[saga]
2016/09/06(火) 22:35:20.18 ID:RE0Y+nXd0
 仙台での撮影は、何事もなく終わった。そう、本当に一日で終わってしまった。 
 朝早くに新幹線で故郷に向かい、現場に着き、メイクをしてもらって、打ち合わせ。それから、撮影。 
 NGも何回か出たが、カメラの角度やカンペの読み間違い、つまり、撮影を中断するほどのものでもなく、 
 結局陽が暮れる前にはテレビ局を後にしてしまうほどだった。 
  
13: ◆dCFehqwTmo[saga]
2016/09/06(火) 22:40:38.15 ID:RE0Y+nXd0
 「……さて、じゃあ行こうか」 
  
 あなたはそう言って、テレビ局の門を出てすぐにタクシーを呼んでいた。 
 数分もせずに来た車に乗り込み、あなたは運転手に、わたしの家の住所を口にする。 
  
14: ◆dCFehqwTmo[saga]
2016/09/06(火) 22:46:05.63 ID:RE0Y+nXd0
 ……数か月ぶりに両親に会い、ほんとうに帰郷したことを改めて自覚した。 
 あなたはほんとうに事前の連絡をしていたようで、わたしの突然の帰りを、お父さんも、お母さんも、驚くことなく歓迎していた。 
 久しぶりに触れる両親の手……。心の準備もままならなかったとはいえ、そのぬくもりにわたしは胸が震える。 
  
 『君には親がいる。君に微笑み、君の手をとってくれる人がいる。どうか、どうか幸せに生きてほしい』 
15: ◆dCFehqwTmo[saga]
2016/09/06(火) 22:50:30.08 ID:RE0Y+nXd0
 久しぶりのお母さんの手料理はとてもおいしかった。 
 女子寮で自炊することはあっても、食べていてこれほど嬉しくなるご飯を作れたことは、たぶん、ない。 
 ……たぶん、それはわたしの隣にあなたがいるから。 
  
 玄関口で手土産を両親に渡したあなたが「ホテルに帰ります」と言ったとき、即座にお母さんがあなたを制した。 
16: ◆dCFehqwTmo[saga]
2016/09/06(火) 22:57:18.65 ID:RE0Y+nXd0
  
  
 「プロデューサーさん」 
  
 二階の自室、廊下をはさんだ向かいが客間で、あなたはここに泊まることになった。 
50Res/21.00 KB
↑[8] 前[4] 次[6] 
板[3] 1-[1] l20 
	このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています。
	もう書き込みできません。