過去ログ - 佐久間まゆ「あなたを待ちわびて」
↓ 1- 覧 板 20
8: ◆dCFehqwTmo[saga]
2016/09/06(火) 22:23:16.42 ID:RE0Y+nXd0
あるお仕事を思い出す。
それは、ついこの間。初夏の頃のこと。
ある雑誌で企画されているブライダル特集の撮影で、わたしはウエディングドレスを着ることになって。
撮影の休憩中、あなたを、教会に呼び出したときのこと。
9: ◆dCFehqwTmo[saga]
2016/09/06(火) 22:26:29.88 ID:RE0Y+nXd0
「……きみは」
あなたの言葉を遮るように、わたしは右手の手のひらをあなたに差し出し、頭を振る。
左手には紅いバラのブーケ。
開け放たれた扉から入り込む潮風が、わずかに散っていた花びらを巻き上げる。
10: ◆dCFehqwTmo[saga]
2016/09/06(火) 22:27:05.16 ID:RE0Y+nXd0
――あなたはプロデューサーで、佐久間まゆはアイドルだから…わたしとあなたは決して結ばれないって…知ってるから…。
11: ◆dCFehqwTmo[saga]
2016/09/06(火) 22:27:33.20 ID:RE0Y+nXd0
---
--
-
12: ◆dCFehqwTmo[saga]
2016/09/06(火) 22:35:20.18 ID:RE0Y+nXd0
仙台での撮影は、何事もなく終わった。そう、本当に一日で終わってしまった。
朝早くに新幹線で故郷に向かい、現場に着き、メイクをしてもらって、打ち合わせ。それから、撮影。
NGも何回か出たが、カメラの角度やカンペの読み間違い、つまり、撮影を中断するほどのものでもなく、
結局陽が暮れる前にはテレビ局を後にしてしまうほどだった。
13: ◆dCFehqwTmo[saga]
2016/09/06(火) 22:40:38.15 ID:RE0Y+nXd0
「……さて、じゃあ行こうか」
あなたはそう言って、テレビ局の門を出てすぐにタクシーを呼んでいた。
数分もせずに来た車に乗り込み、あなたは運転手に、わたしの家の住所を口にする。
14: ◆dCFehqwTmo[saga]
2016/09/06(火) 22:46:05.63 ID:RE0Y+nXd0
……数か月ぶりに両親に会い、ほんとうに帰郷したことを改めて自覚した。
あなたはほんとうに事前の連絡をしていたようで、わたしの突然の帰りを、お父さんも、お母さんも、驚くことなく歓迎していた。
久しぶりに触れる両親の手……。心の準備もままならなかったとはいえ、そのぬくもりにわたしは胸が震える。
『君には親がいる。君に微笑み、君の手をとってくれる人がいる。どうか、どうか幸せに生きてほしい』
15: ◆dCFehqwTmo[saga]
2016/09/06(火) 22:50:30.08 ID:RE0Y+nXd0
久しぶりのお母さんの手料理はとてもおいしかった。
女子寮で自炊することはあっても、食べていてこれほど嬉しくなるご飯を作れたことは、たぶん、ない。
……たぶん、それはわたしの隣にあなたがいるから。
玄関口で手土産を両親に渡したあなたが「ホテルに帰ります」と言ったとき、即座にお母さんがあなたを制した。
16: ◆dCFehqwTmo[saga]
2016/09/06(火) 22:57:18.65 ID:RE0Y+nXd0
「プロデューサーさん」
二階の自室、廊下をはさんだ向かいが客間で、あなたはここに泊まることになった。
17: ◆dCFehqwTmo[saga]
2016/09/06(火) 23:01:07.83 ID:RE0Y+nXd0
六畳一間の客間。普段は中央にテーブルを置いているが、端に寄せられ、今は布団が敷かれている。
窓の外には、都会では見ることの叶わない数多の星々が見える。
部屋のわきにはスーツが掛けられ、その真下にはあなたの荷物が置かれている。
あなたはシックな柄のスウェットに身を通し、布団の上に座っていた。
そのスウェットに見覚えはなかった。
18: ◆dCFehqwTmo[saga]
2016/09/06(火) 23:03:19.14 ID:RE0Y+nXd0
「まさか、こんな日が来るとは思いませんでした」
「……ほんとだな」
ふう、というため息とともにあなたは応える。
50Res/21.00 KB
↑[8] 前[4] 次[6]
板[3] 1-[1] l20
このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています。
もう書き込みできません。