過去ログ - 【ひなビタ♪】霜月凛「やまびこ」
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4: ◆khUorI/jDo[saga]
2016/09/28(水) 18:40:07.41 ID:tZz1LPe6o
「りんちゃん、いいですか?」
呼ばれて視線を戻すと、喫茶店が向かいの席を指して立っていた。
頷いて座るように促すと、先程までの恭しい動作というよりは子どものような溌剌さでぽんと椅子に腰を下ろした。
「貴方、仕事はいいの?今日は一人で店番と聞いたけれど」
「平日のこの時間はもうほとんどお客さんも来ませんから。イブちゃんがお茶しに来るかもしれませんから、その時は戻りますけど」
サービスです、と言って喫茶店が再びカップに注いだ珈琲に口を付けて、
私は所在無げに彼女の肩だの、窮屈そうな襟首だの、メイド服のフリルだのをぼんやりと眺めた。
ふと目が合うと、喫茶店は小首を傾げて笑ってみせた。
それがなんだか急かしているように見えた私は、喉から出す言葉も決めないままにあわあわと口を動かして、結局は再び窓に視線を逃がした。
遠くの空に藍が混ざり始めている。
「……随分日が短くなって来たわね」
「そうですね、いちばん暑くなってくる頃には夏至も過ぎてますから……毎年びっくりしてる気がします」
「散歩をしていても暗いと本が読みにくくなるから困るのよ。少し時間を早める必要があるわね」
「それはいいですけど、車には気を付けてくださいね。
りんちゃんてば本に目を落としたまま横断歩道まで渡ってしまうから、私、とってもとっても心配です」
「見る必要があるものはちゃんと見ているわ。平気よ、慣れているから」
答えながら、この子を心配させてしまっているのならたまには顔を上げるようにしよう、と自戒した。
ただでさえ苦労の多い子なのに私などに気を割かせては不憫だ。
私の少々投げやりな返答に満足しなかったらしい喫茶店の怪訝そうな顔に苦笑して珈琲を啜る。
空間を切り取るように差し込んでいた斜陽は徐々にその光量を落としていた。照明が点いていない店内をじわりと影が這っていく。
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