38: ◆Xz5sQ/W/66[saga]
2016/10/23(日) 09:36:45.67 ID:uhMwzG8T0
「あい」
カウンターの上に、徳利とお猪口がトンと置かれた。
楓は受け取った徳利から酒を注ぎ、手にしたお猪口に勢いよく口付けると、
「ん、んっ!?」と小さく声を上げ、驚きにその目を丸くした。
ニンジン酒の名前の通り、綺麗な朱色に染まったその酒は、
口に含んだ瞬間、生のニンジンをそのまま齧ったかと錯覚するほどの強い風味を広げながら、
楓の口の中に絡みついていた、黒蜜の甘さをサッパリと洗い流していった。
そんな強烈な一口目の後に残るのは、ニンジン独特の癖のある、上品で控えめな甘さだけ。
それでもさっきまで口の中で暴れていた黒蜜の甘さと比べ、まだ「甘い」と楽しめるだけマシである。
ニンジン酒の二口目を口に含み、黒蜜の暴力的な甘味からようやくの思いで解放された楓が、
カウンターの上に置かれていた木彫りのウサギの姿を視界に見つけ(本当に……ウサギになった気分だわ)と息をつく。
そうして何とか落ち着いた楓の隣から、言葉に出来ない、声にならないような悲鳴が上がった。
驚いた楓が慌てて振り向けば、隣に座るプロデューサーが、
手にヨモギ餅を持ったまま固まっているではないか。
「ひゃんで……みふがぁ……」
ふがふがと涙目になりながら口を動かすプロデューサーの姿が、
入れ歯を失くしたお年寄りのイメージと被って見える。
……どうやら勧められて食べたヨモギ餅の中にも、例の黒蜜が入っていたらしい。
プロデューサーの奥でお腹を抱え、必死に笑いを堪えている少女の姿が、
このお茶目な悪戯の犯人が誰であるかを語っていた。
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