過去ログ - サンチョ「坊つちやん」
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37: ◆HACkWQpQbk[saga]
2016/10/22(土) 17:02:06.48 ID:1dmR7XxL0
 私は馬鹿め、スライムに善いも悪いもあるものか、スライムは人間の敵だと云えばちがうよ、ぼくわるくないよの一点張りである。
 どうしても殺されたくないらしいが、敵をみすみす逃して後ろからばっさりとやられる将を幾らでも知っている。
 そうしている間にもスライムはたすけてと相変わらずぷるぷるしているので仕方がないからひのきの棒で殴って気絶させておいた。運が良ければ息を吹き返すだろう。
 もっとも人間の肩を持つような個体が他のスライムらと相容れられるかなぞは知ったことではない。



38: ◆HACkWQpQbk[saga]
2016/10/22(土) 17:03:12.44 ID:1dmR7XxL0
 文字通りぐんにゃりと延びたスライムを後にしてさらに奥へと進めば、妙に広い穴の一角がある。
 見れば石を布団にして寝ている人間がある。
 ぐうぐうと間抜けな鼾が聞こえるので思い切り頭を蹴っ飛ばしてやった。
 すると石に敷かれた男がむにゃむにゃと訳の分からない寝言を言っているのでもう一度蹴り飛ばすかと身構えると急に意識を取り戻しておお、すまないが石をどけてくれないかと懇願する。
 石は重かったが規模はそれほどでもないので容易にどかせた。
以下略



39: ◆HACkWQpQbk[saga]
2016/10/22(土) 17:03:39.72 ID:1dmR7XxL0
 洞窟はそこで行き止まりだったので父の行く先はついぞ知り得なかった。
 私は少し肩を透かされた気分で帰った。帰りに先のわるくないスライムの元を訪れると彼の姿は形もなく、代わりにわずかなゴールドが落ちていた。
 大方軽い謝礼なのだろう、ありがたく受け取っておいた。



40: ◆HACkWQpQbk[saga]
2016/10/22(土) 17:04:35.23 ID:1dmR7XxL0
 屋敷に帰ればサンチョがおかえりなさいませ、坊っちゃんと召使らしく丁寧に対応をするから気分が良かった。
 少し休むと云うとどうぞ、おやすみなさいませと云って毛布を掛けてくれた。
 その後は冒険の疲れからか眠気がどっと押し寄せてきてそのまま翌朝まで起きなかった。



41: ◆HACkWQpQbk[saga]
2016/10/22(土) 17:05:41.00 ID:1dmR7XxL0
 起きてみれば外が明るい。
 おや、存外眠っていないなと思うとサンチョがおはようございますと挨拶をするのでどうやら次の日の朝まで眠りこけていたらしいと悟った。
 階下まで降りると父とダンカンの名無しのおかみとビアンカとが待ち受けていた。
 こんな朝早くから何の用かと思えば薬を売る某が戻ってきたので主人の待つ隣町に帰るのだという。
 その道具屋におかしな点はなかったかと尋ねると別段普通でしたよと云うので別状はなかったようだが、石に潰されてなお意気軒昂というのもそれはそれで不気味である。
以下略



42: ◆HACkWQpQbk[saga]
2016/10/22(土) 17:06:36.16 ID:1dmR7XxL0
 早速出立すると召使のサンチョがいってらっしゃいませと見送る。
 終始主人の旅に付き従わない所を見ると存外不忠である。
 ぞろぞろと四人連れで村を出ると旅慣れている我々親子の足に母娘二人が中々ついていけない。
 さすがに護衛であるから置いてけぼりにはしないがやりにくくって仕様がない。荷を背負った驢馬を連れ歩いているようだ。
 やがてすぐに隣町が見えた。村にいたのと似たような門番が我々を一瞥したが、父と名無しのおかみを見ればすぐに脇へ退いた。
以下略



43: ◆HACkWQpQbk[saga]
2016/10/22(土) 17:07:09.19 ID:1dmR7XxL0
 そのまま道なりに真っ直ぐ行けばビアンカらの経営する宿屋である。
 それもそこいらの酒場や民家や教会が小さく見えるほど立派なものだから仰天した。
 こんなに広いものを夫婦と娘で切り盛りしているのだから人並みの苦労ではない。
 中に入って案内されるままに進むと、サンチョほどではないがこれまた恰幅の良い男がベッドに横たわっている。おそらくこれがダンカンという宿屋の主人なのだろう。
 顔が青ざめていて具合が悪そうだ。咳も色々と混じっている音がする。
以下略



44: ◆HACkWQpQbk[saga]
2016/10/22(土) 17:08:12.49 ID:1dmR7XxL0
 父が私は彼を見舞っているから退屈ならそこらで遊んでおいでと云うのでありがたく退散した。
 知り合いでもない病人に掛けてやる言葉など持ち合わせてはいないのだ。
 するとなぜか実の娘であるはずのビアンカもついてきた。
 父の元にいなくていいのかと聞くとどうせ明日には治ってるからいいわよと豪胆に答える。
 それにあそこにいると風邪が移りそうだし、と付け加えられればこちらはもう云うことなどない。ビアンカを連れて町を巡ることにした。
以下略



45: ◆HACkWQpQbk[saga]
2016/10/22(土) 17:08:42.82 ID:1dmR7XxL0
 ぐるりと辺りを見回すと何のことはない、ここもサンタローズとほとんど変わらぬ田舎である。
 しかしビアンカはサンタローズよりずっと賑やかでしょうと得意げなので曖昧に頷いておいた。
 彼女はここと田舎のサンタローズしか訪れたことがないので本当の盛況というのを知らぬのだろう。少し可哀想である。



46: ◆HACkWQpQbk[saga]
2016/10/22(土) 17:09:48.45 ID:1dmR7XxL0
 町で一番大きな建物は先に云った通り宿屋だが、その次と云うと民家だから驚いた。しかも池に囲まれた庭付きだから余程金持ちが住んでいるに相違ない。
 その民家の庭を覗くと子供が二人ほどきゃっきゃとはしゃいでいる。
 自分と同じくらいの連中だが、なんだか様子がおかしい。
 庭の一角になにかあって、それに石を投げたり枝で刺したり蹴飛ばしたりと物騒な遊びをしている。
 近づいてみるとはたして虐められているのは黄色い派手な柄をした猫であった。
以下略



47: ◆HACkWQpQbk[saga]
2016/10/22(土) 17:10:19.47 ID:1dmR7XxL0
 これはいかん、と私は庭に飛び入り、子供達をその猫から離した。
 すると私に掴まれた兄弟の片割れがなにすんだよう、今猫を虐めてんだから邪魔すんなようと生意気なので出立の際に買ってもらったかしのつえで頭をえいや、と叩いた。
 殴られた片割れはもんどりうってひっくり返ったがもう片方は逃してしまったので追いかけようとするとビアンカが止めに入る。
 離せと云うと喧嘩はだめよと仲裁のつもりなんだろうが、これは喧嘩でなくて教育である。
 豹と猫の違いが分からん餓鬼共を危険から遠ざけてやったのだからむしろ感謝されて然るべきであるのに、次は私がビアンカに殴られた。
以下略



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