過去ログ - サンチョ「坊つちやん」
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42: ◆HACkWQpQbk[saga]
2016/10/22(土) 17:06:36.16 ID:1dmR7XxL0
 早速出立すると召使のサンチョがいってらっしゃいませと見送る。
 終始主人の旅に付き従わない所を見ると存外不忠である。
 ぞろぞろと四人連れで村を出ると旅慣れている我々親子の足に母娘二人が中々ついていけない。
 さすがに護衛であるから置いてけぼりにはしないがやりにくくって仕様がない。荷を背負った驢馬を連れ歩いているようだ。
 やがてすぐに隣町が見えた。村にいたのと似たような門番が我々を一瞥したが、父と名無しのおかみを見ればすぐに脇へ退いた。
以下略



43: ◆HACkWQpQbk[saga]
2016/10/22(土) 17:07:09.19 ID:1dmR7XxL0
 そのまま道なりに真っ直ぐ行けばビアンカらの経営する宿屋である。
 それもそこいらの酒場や民家や教会が小さく見えるほど立派なものだから仰天した。
 こんなに広いものを夫婦と娘で切り盛りしているのだから人並みの苦労ではない。
 中に入って案内されるままに進むと、サンチョほどではないがこれまた恰幅の良い男がベッドに横たわっている。おそらくこれがダンカンという宿屋の主人なのだろう。
 顔が青ざめていて具合が悪そうだ。咳も色々と混じっている音がする。
以下略



44: ◆HACkWQpQbk[saga]
2016/10/22(土) 17:08:12.49 ID:1dmR7XxL0
 父が私は彼を見舞っているから退屈ならそこらで遊んでおいでと云うのでありがたく退散した。
 知り合いでもない病人に掛けてやる言葉など持ち合わせてはいないのだ。
 するとなぜか実の娘であるはずのビアンカもついてきた。
 父の元にいなくていいのかと聞くとどうせ明日には治ってるからいいわよと豪胆に答える。
 それにあそこにいると風邪が移りそうだし、と付け加えられればこちらはもう云うことなどない。ビアンカを連れて町を巡ることにした。
以下略



45: ◆HACkWQpQbk[saga]
2016/10/22(土) 17:08:42.82 ID:1dmR7XxL0
 ぐるりと辺りを見回すと何のことはない、ここもサンタローズとほとんど変わらぬ田舎である。
 しかしビアンカはサンタローズよりずっと賑やかでしょうと得意げなので曖昧に頷いておいた。
 彼女はここと田舎のサンタローズしか訪れたことがないので本当の盛況というのを知らぬのだろう。少し可哀想である。



46: ◆HACkWQpQbk[saga]
2016/10/22(土) 17:09:48.45 ID:1dmR7XxL0
 町で一番大きな建物は先に云った通り宿屋だが、その次と云うと民家だから驚いた。しかも池に囲まれた庭付きだから余程金持ちが住んでいるに相違ない。
 その民家の庭を覗くと子供が二人ほどきゃっきゃとはしゃいでいる。
 自分と同じくらいの連中だが、なんだか様子がおかしい。
 庭の一角になにかあって、それに石を投げたり枝で刺したり蹴飛ばしたりと物騒な遊びをしている。
 近づいてみるとはたして虐められているのは黄色い派手な柄をした猫であった。
以下略



47: ◆HACkWQpQbk[saga]
2016/10/22(土) 17:10:19.47 ID:1dmR7XxL0
 これはいかん、と私は庭に飛び入り、子供達をその猫から離した。
 すると私に掴まれた兄弟の片割れがなにすんだよう、今猫を虐めてんだから邪魔すんなようと生意気なので出立の際に買ってもらったかしのつえで頭をえいや、と叩いた。
 殴られた片割れはもんどりうってひっくり返ったがもう片方は逃してしまったので追いかけようとするとビアンカが止めに入る。
 離せと云うと喧嘩はだめよと仲裁のつもりなんだろうが、これは喧嘩でなくて教育である。
 豹と猫の違いが分からん餓鬼共を危険から遠ざけてやったのだからむしろ感謝されて然るべきであるのに、次は私がビアンカに殴られた。
以下略



48: ◆HACkWQpQbk[saga]
2016/10/22(土) 17:11:32.98 ID:1dmR7XxL0
 意識を取り戻すと目の前に先の兄弟が揃って似たようなたんこぶを拵えて神妙に座っている。
 おや、私が殴ったのは片方だけだったがと思うと隣には納刀したくだものナイフを握りしめたビアンカがいるのでどうやら無事だった片割れも喧嘩両成敗の憂き目にあったようである。
 辺りにあの豹がいないので逃がしたらしいが、目の前の兄弟等の眼を見る限り諦めていない様子だから嘆けばいいやら苦笑すればいいやら分からなかった。
 ビアンカがもうあの猫を虐めちゃだめよと警告すると兄弟は仏頂面で斜に構えて相手にしない。
 云って聞かぬのなら直接体に訴える他あるまいと思っていると、私が目覚めたのに気がついた片割れが慌ててレヌール城のお化けを退治したら猫は譲ると条件を寄越す。
以下略



49: ◆HACkWQpQbk[saga]
2016/10/22(土) 17:12:23.87 ID:1dmR7XxL0
 私がやい巫山戯るな。なぜ正しいことをした我々が面倒を背負わねばならんのだと怒鳴ると兄弟が揃って身をすくめる。
 貴様らがその城へ出向いて、お化けなり妖怪なり退治してそれで猫を要求するなら道理は通る。
 しかし正義を敢行した我々が苦労をして、一方で野生の生き物をさらって虐めている貴様らが安穏と待ち受けるなど全体どういう了見だとまくし立てるとビアンカがまあまあとやんわり窘める。ナイフを手にしてまあまあもないもんだ。



50: ◆HACkWQpQbk[saga]
2016/10/22(土) 17:13:23.77 ID:1dmR7XxL0
 兄弟はすっかり私の剣幕に圧されて萎縮しているが、ビアンカは思案顔で俯向いている。
 すると何を思ったかそれじゃあ私たちがそれを退治すればいいのねと兄弟の提案を呑む様子だから驚いた。
 兄弟らはうんうんと二つ返事で了承する。私は納得しかねたが、年長者が極めたことなので文句の云いようがない。
 ビアンカの方もお化け退治ねと興奮気味で話が通じそうにないから私はやれやれと首を振るばかりであった。



51: ◆HACkWQpQbk[saga]
2016/10/22(土) 17:14:15.82 ID:1dmR7XxL0
 そうと決まれば行動は早い。早速出立だと町を出ようとすると例の門番が機敏に邪魔をする。
 しかも帯刀しているから物騒で近寄り難い。どうしたものかとあぐねているとビアンカが耳打ちをしてきた。
 曰く夜にはこの門番は鼾を立てて居眠りをしてしまうのだという。
 私が驚いて夜の当番の者は居ないのかと云うときょとんとしているから呆れた。
 ここの住人は町の警備をすっかりこの男一人に委任しているようだ。
以下略



52: ◆HACkWQpQbk[saga]
2016/10/22(土) 17:16:01.33 ID:1dmR7XxL0
 夜になるまで待つとなれば昼に行動していては差し支えるから早めに寝ることにする。
 宿に戻ると名無しのおかみが必死に父を引き留めている。
 様子から察するに日の上がらない内に出立したい父をどうにかして宿に泊まらせたいようだ。
 父が迷っているのでこれ幸いとせっかくだから泊まりましょうと云うとお前がそう云うのなら、と渋々承諾してくれた。
 ダンカンのおかみはそれを聞いて飛び上がるように喜んですぐに部屋を手配してくれた。
以下略



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