2:名無しNIPPER
2016/10/26(水) 01:29:12.47 ID:DdD2BNiL0
〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜
「では、行って参ります」
「ああ、道中気をつける様に」
「はい」
どうしたって肩に力の入る専務の前で一礼の後、ゴロゴロとキャリーケースを引きずりながら退室する。
PM3:30
普段ではあり得ない上がり時間。
それもこれも、後数時間後に搭乗する飛行機の為だ。
現地時間明日の夜、日本から13時間遅れたニューヨークの地で、我が担当アイドルが公演する。
18:25発ニューヨーク行きの航空券を今一度確認し、俺は担当アイドルにメッセージを送る。
〈今どこにいる?〉
コンマを跨ぐ前に既読が付いて、コンマを跨いだら返信が来た。
〈プロダクションに着いたとこだよ♪〉
〈オッケ、今向かう〉
エレベーターホールで下りを待っていると、サニーパッションの先輩プロデューサーがやって来た。
「お疲れ様です」
「お疲れ様です。いよいよですね」
「ええ、今更ながらドキドキして来ました。そちらは今からオーディションですか?」
その手に抱えるうっすら透けている履歴書の束を見て尋ねると、彼は首肯した。
一年先輩でありながら、全く偉ぶらない彼を、俺はとても尊敬している。
「はい。今回は中々面白い子達に巡り合えそうです。……話を戻しますが、水木さんはもっと緊張されてると思います。しっかりケアしてあげて下さいね」
「その点は余り心配していません。あいつは肝が座ってますから」
「……それ故に気負いしている可能性もありますので、そちらもお忘れなく」
「……肝に命じておきます」
大らかでありながら、どこまでも冷静に物事を観る。
彼の最強の長所だ。叶わん。
「ですが、きっと貴方達2人なら大丈夫でしょう」
冷静な切り返しでぶった斬られた割に意外な言葉が続き、少し驚いた。
「伊吹の受け売りですが、貴方達はいいパートナーだ。貴方は彼女の力量を誰よりも正確かつ冷静に見ているし、彼女も自身の実力に驕らず、研鑽を怠らない」
あれま、意外。
返って来たのは、賛辞も賛辞、大賛辞だ。
こりゃ惨事は許されないな。
なんちて。
「貴方達は無敵です」
チンッ!と上りのエレベーターが着いた。
小松伊吹の担当プロデューサーは微笑みながら搭乗し、ドアを閉めがてら俺の目を見て締め括った。
「唸らせて来てください。世界を」
思わず武者震いが走った。
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